季刊 住宅土地経済

PUBLICATION

季刊 住宅土地経済の詳細

No.139

季刊 住宅土地経済 2026年冬季号

季刊 住宅土地経済 2026年冬季号

発行年月2026年1月

価格(税込) 786円

判型B5

頁数40頁

PDF

在庫

目次

分類 ページ テーマ 著者
巻頭言 1 住生活基本計画改定に向けて 宿本尚吾
座談会 2-14 「負動産」の有償引取サービスの現状と課題 川合紀子・小林弘典・吉原祥子・岩田真一郎
論文 16-25 長寿命化・中古流通促進に係る住宅認証が成約価格に与える影響 鈴木雅智
論文 26-35 大都市の水害が不動産取引に与える影響 相場郁人
海外論文紹介 36-39 通勤条件の向上が従業員に与える影響 滝川伸作

エディトリアルノート

エディトリアルノート
 近年、住宅・不動産市場をめぐる課題は多様化している。住宅ストックの質をいかに維持し長寿命化を図るか、また災害リスクの高まりのなかで不動産価格にどのような影響が生じるのかは、政策・実務の双方にとって重要なテーマである。本号で取り上げる2つの論文は、こうした課題に正面から向き合い、住宅認証制度の効果や水害が不動産取引に与える影響を実証的に検証したものである。両論文は、住宅市場の将来的な方向性を考える上で示唆に富む成果を提示している。
 鈴木論文(「長寿命化・中古流通促進に係る住宅認証が成約価格に与える影響」)は、東京圏の新築・中古戸建住宅を対象に、日本の住宅認証が成約価格に及ぼす影響を実証的に検証している。日本の住宅市場は新築偏重で、住宅寿命の短さや既存住宅流通の乏しさといった構造的課題を抱える。鈴木論文は、この問題への政策的アプローチとして住宅認証制度に着目する点に意義がある。
 鈴木論文で扱っている認証は、⑴高性能認証の「長期優良住宅」、⑵住宅ローン減税関係の「耐震基準適合証明書」「瑕疵保険検査基準への適合」であり、その他の認証も含めて検証している。分析では、長期優良住宅に明確な価格プレミアムが確認され、その背景には税制措置に加え、性能や維持管理面の価値があると考えられる。他方、認証取得率は低く、既存住宅への波及も限定的である。築年数との交差項による検証では、新築時を除き追加的な効果は見られず、プレミアムが主として新築段階で形成されることが示される。
 鈴木論文は、通常のヘドニック分析に加えて傾向スコア回帰を用い、結果の頑健性を確認している。
 分析結果からは、①長期優良住宅は耐久性に基づき正のプレミアムを形成すること、②既存住宅向け認証はとくに築古住宅で価格を押し上げること、③購入者メリットの小さい認証は中立的な効果にとどまる可能性が示されている。すなわち、長寿命化や中古流通促進に資する認証を受けた住宅には、市場で相対的に高い需要がある。
 最後に、鈴木論文の結果は東京圏の平均的傾向を示すものであり、今後は立地特性を踏まえた検証が求められる。災害リスクの高い地域や人口減少が進む地域では、同様のプレミアムが得られない可能性があるためである。
 以上より、鈴木論文は、日本の住宅市場における認証制度の役割と効果を明らかにし、住宅ストックの長寿命化と既存住宅流通の促進に向けて有益な示唆を与える研究といえる。

 相場論文(「大都市の水害が不動産取引に与える影響:『令和元年東日本台風』における検証」)は、多摩川下流域を対象に、2019年の台風19号(東日本台風)による内水氾濫が不動産市場に与えた影響を実証的に明らかにした研究である。マンションと戸建を区別して影響を測定した点に大きな特色があり、首都圏の水害影響を扱った統計的研究としても先駆性が高い。
 分析結果から、浸水地域では価格下落や値下げ率の割引拡大が確認され、とくにマンションの上層階で負の効果が有意となる一方、下層階では有意でない。この一見直観に反する結果は、東日本台風でマンションの地下・低層部にある電源設備が浸水し、長期の停電・断水が生じたことが広く報じられた点が背景にある。上層階でも生活機能停止というリスクを免れないことが買い手の認識として共有され、価格に反映された可能性が高い。他方、下層階の浸水リスクは従来から認知されていたため、リスク認識の更新が生じなかったと考えられる点が示されている。戸建住宅ではマンション以上に深刻な価格下落が確認され、影響が現れる時期も遅い。木造が主流で浸水被害が構造的に大きくなりやすい点が、その差異を生む要因として指摘されている。
 これらの知見は、水害が不動産に与える影響が物件構造や被災の様態によって大きく異なることを示し、マンションでは電源設備の浸水対策が資産価値維持に重要であること、また水害リスクの事前周知が不可欠であることを示唆する。2020年から重要事項説明におけるハザードマップ開示が義務化されたが、相場論文の結果はその制度的意義を裏付けるものである。
 さらに、PLATEAUなどの3D都市モデルを活用することで、浸水時にどの階層がどの程度影響を受けるか、電源設備の位置によってリスクがどのように変化するかを可視化でき、購入者の理解や防災設計に資する応用も期待される。(M・K)

印刷