タイトル | 季刊 住宅土地経済 1993年冬季号 | ||||
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発行年月 | 平成5年01月 | 判型 | B5 | 頁数 | 32 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 住宅大国への道 | 師岡健四郎 | ||
研究論文 | 土地利用規制と不完全競争 | 小西秀樹 | ||
研究論文 | 東京圏における通勤時間の経済分析 | 大河原透・鈴木勉 | ||
研究論文 | キャピタル・ゲインと家計消費・貯蓄 | チャールズ.ユウジ.ホリオカ | ||
時事展望 | 東京一極集中の是正策 | 高木新太郎 | ||
海外論文紹介 | 住宅補助政策II | 白井誠人 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 土地利用の用途規制を正当化する論理として一般的なのは、外部経済・不経済に基づくものである。例えば、工場は騒音や大気汚染などを発生させるので、住宅地に工場が立地すると住民に迷惑を及ぼすことが多い。このような時には、工場を住宅地の中に入れないという排他的土地利用規制が有益な役割を果たす可能性がある。 外部性の議論での用途規制の主たる役割は、迷惑をかける用途と迷惑を受ける用途の混在を防ぐというものである。しかし、土地利用規制を用いると各用途に割り当てられる土地面積をもコントロールできるので、迷惑をかける用途の拡大を抑えるという量的コントロールの役割も果たすことができる。 例えば、工場が大気汚染公害を発生させている時には、工場の生産量を抑えて大気汚染の発生量を減少させることが望ましい。そのための最善(ファースト・ベスト)の手段は、大気汚染の発生量に応じて公害税(ピグー税と呼ばれている)をかけることである。 しかし、技術的な理由などでそれが不可能なときには、土地利用規制が次善(セカンド・ベスト)の手段の1つになりうる。つまり、用途規制をかける際に、工業地域を狭くする(極端な場合には、工業の立地をすべて不許可にしてしまう)ことによって工場を減少させ公害の発生を抑制できる。 小西論文は、以上のような外部性の議論によらない新しい視点から土地利用規制の分析を行っている。この論文が基礎をおいているのは、鈴村興太郎・清野一治の両氏による「過剰参入定理」である。過剰参入定理は専門の経済学者以外にはあまり知られていないと思われるので、少し詳しく説明しておきたい。 過剰参入定理は、企業の生産にある程度の規模の経済性が存在していて、多数の企業による(完全)競争は成立しないが、1社だけの独占になるほどには規模の経済性が大きくない中間的なケースを扱っている。このような場合には複数企業による寡占的競争の状態になるが、寡占的競争のもとでは完全競争のケースと違って資源配分の効率性は確保されない。これは、各企業がある程度の価格支配力をもつ(水平ではなく右下がりの需要曲線に直面する)ので、生産量を抑制し価格をつり上げようとするからである。 寡占的競争による非効率性の一つの側面が、企業数が過大になるという「過剰参入定理」である。つまり、企業の参入が自由で(超過)利潤がゼロになるまで新規参入が続く場合には、企業数が過大になり、生産における規模の経済性を十分に生かしきれない状態になる。 小西論文では、都市における小規模の小売業の乱立がこの種の過剰参入の状態に相当するとの前提のもとで、どのような土地利用規制が資源配分の効率性を改善するかを分析している。 最初に、もし商業における企業数を政府が直接的に規制することができれば、商業地を広げ、住宅地を狭めるという土地利用規制が経済厚生を改善することが示される。これは不完全競争産業では企業が生産量を抑制し価格をつり上げようとするので、総生産量が過小になる傾向をもつことによる。土地利用規制によって商業地を拡大すれば、商業サービスの生産が増加し、過小生産の傾向を抑制することになるからである。 実際には、企業数を政府が規制することは困難であることが多い。この場合にどのような土地利用規制が望ましいかはさまざまな要因に依存し、分析は非常に複雑である。小西論文では、商業地を広げたほうが望ましいケースも存在するが、逆に商業地を狭める規制を行うのが望ましいケースも存在することが示されている。 小西論文は土地利用規制の分析に新しい視点を提供しているが、この分析を実際の土地利用規制に適用するには数多くの課題が残されている。それらの例として以下の2点をあげておきたい。 第1に、過剰参入定理の非効率性がどの程度定量的に重要であり、硬直的になりがちな規制の弊害を上回る便益が存在するかどうかの分析が必要である。 第2に、小売業においては空間的配置の問題が重要であり、どの地点に立地するかで空間的差別化が行われている。このような場合には、小売サービスは同質的なサービスではないので、小西モデルの分析は直接には適用できない。空間的差別化が行われている場合には、企業規模が過小ではなく過大になることもあることが知られており、過剰参入定理も修正が必要になる。 大河原・鈴木論文は、東京圏の通勤パターンに関する綿密な実証研究である。この研究は、経済学畑の研究者と都市工学畑の研究者の共同研究であるので、これまでの経済学の研究にはみられない詳細かつ大規模なデータ解析が行われている。 大河原・鈴木論文の分析の焦点は交差通勤(cross commuting)である。交差通勤の例は、常磐線の取手の住民が新宿に通勤し、小田急線の町田の住民が上野に通勤しているような場合である。この場合には、これらの2人の住居を入れ換えると2人の通勤時間を大幅に短縮することができる。 税制や教育システムなどの影響で、わが国では住宅の住み替えの費用が非常に高くなっており、アメリカでは平均して5年に1回は転居しているのに対して、わが国での転居はまれである。所有している住宅を売却して新しい住宅を購入すると、不動産業者に支払う手数料(売却と購入のそれぞれについて価額の3%)に加えて、不動産取得税、登録免許税などの取引税だけで購入住宅価格のほぼ2%程度のコストがかかり、さらに売却した住宅の売却益の3,000万円を超える部分には譲渡所得税が課税される。取引税や譲渡所得税を軽減して住み替えの費用を低くすると、通勤に便利な地域への転居が進み、東京圏全体の平均通勤時間は短縮されるはずである。 大河原・鈴木論文では、このような転居が完全に行われ、交差通勤がまったく排除できた場合には、どれだけの通勤時間の短縮が達成できるかを計算している。その結果によれば、東京圏の平均通勤時間は49.84分から42.46分へ約7分(15%)も減少させることができる。また、60分以上の長距離通勤者の比率を25%程度から16%程度に減少させることができる。さらに、都庁移転と業務核都市分散の効果も計算されており、これらが首都圏の平均通勤時間に及ぼす効果は小さく、1分以下であることも示されている。 最後に、ホリオカ論文では土地や土地以外の資産のキャピタル・ゲインが家計の消費と貯蓄にどのような効果をもっているかを分析している。80年代後半のいわゆるバブル期には莫大なキャピタル・ゲインが発生し、その後のバブルの破裂の際には莫大なキャピタル・ロスが発生した。このようなキャピタル・ゲインとキャピタル・ロスの大部分は含み益、含み損にとどまっており、ごく一部しか実現されていない。家計が含み益を実現された所得増加と同じように見なして消費を増加させているのかどうかは、興味あるテーマである。 キャピタル・ゲインの変動はきわめて大きいので、キャピタル・ゲインが家計消費に与える短期的な効果と長期的な効果は大きく異なる可能性がある。ホリオカ論文では、時系列分析の手法を用いてキャピタル・ゲインの長期的な効果を分析している。その結果によれば、キャピタル・ゲインは長期的には家計消費に大きく影響し、しかも純キャピタル・ゲインからの限界消費性向はほぼ1である。つまり、キャピタル・ゲインが1万円増加するとその増加分すべてが消費に回され、家計消費が1万円増加する。いいかえれば、キャピタル・ゲインの部分は貯蓄の増加には回されない。 通常の所得からの限界消費性向が1より小さいことを考えると、含み益からの限界消費性向が1であるという推定結果は驚くべきものであり、研究者の間で議論を呼ぶものと思われる。(Y.K.) |
価格(税込) | 500円 | 在庫 | ○ |
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