季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1993年秋季号
発行年月 平成5年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言住宅政策の転期澤田光英
特別論文土地保有税および土地譲渡税の経済効果目良浩一
研究論文土地利用の動学的効率性と地価西村清彦
研究論文規模の経済性と産業別土地課税の理論小西秀樹
研究論文英国の住宅価格の構成要素に関する実証分析中井検裕
海外論文紹介地域経済の長期的成長澤田康幸
内容確認
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ノート
 本号の論文は、土地利用の動学的効率性を検討した西村論文、不完全競争の下での最適土地課税のあり方を吟味した小西論文、イギリスにおける住宅開発地域における土地価格付けを実証分析した中井論文からなっている。いずれも意欲的な論文であり、日本の土地利用政策、土地税制、土地価格に対して多くの示唆を与えてくれる。
 
 まず、西村論文「土地利用の動学的効率性と地価」は、開放経済下の成長理論の立場から日本の土地利用の効率性を検討したものである。
 従来の研究と比べて、土地利用の効率性に関する評価をマクロ的かつ動学的な観点から行っているところに斬新さがある。さらに、日本の地代の推定など不完全なデータの壁を乗り越えて、土地利用の動学的な効率性を実証的に分析していることも意欲的である。
 具体的には、小国経済において時間を通じて国富関数の最大化が行われている場合、最適な土地利用の必要条件が満たされているかどうかをチェックすることによって土地利用の効率性を評価している。
 ここで最適な土地利用の必要条件とは、土地開発の限界費用が、限界割引収益に等しいという条件である。この条件は、資産市場における裁定取引の均衡条件、すなわちそれ以上は裁定取引を行っても利潤が得られないという「効率的な」資産市場の条件にも対応するものである。そこで、土地利用の効率性について、土地の超過収益率(実質地代+土地開発の実質限界費用?国際的実質利子率)が、系列相関をもっているかどうかをテストすることによって行われている。
 本論文における検討結果によれば、農地については戦後の時期には、1969年の「農業振興地域の整備に関する法律」にもかかわらず土地の効率的な利用が行われていないことが示されている。さらに、1980年代以前と以降をわけてみると、有効利用が行われていない理由が異なっており、1980年代以前には土地に対する過小投資、1980年代以降では過剰投資があったとの結論が得られている。
 市街地については1968年の「新都市計画法」以降の1970年代を除いて土地の効率的な利用が行われていないが、1970年代以降は土地の有効利用と整合的であったという結論が得られている。
 本論文での結論は、もとより多くの仮定やデータの制約の下で得られたものである。例えば、開放経済の下で小国の土地賃貸市場が競争的であり、かつまた取引費用は無視しうる大きさであるとの仮定を置いている。さらに土地利用には外部性がなく、また現実に日本で行われている土地利用規制やゾーニングは、負の外部性を克服するピグー的税・補助金の機能を果たしていると仮定している。しかし、現実の土地利用規制すべてがそうした経済合理性をもっているかどうかは疑問である。
 加えて、日本の農業は、米作については閉鎖経済に近く、しかも米価が政府によって規制されているので、仮に最適な土地利用の必要条件が満たされていたとしても、土地の効率的利用が行われていたとはいえないことも留意すべきであろう。
 また、市街地の土地利用は、1970年代以降は効率的であったとする結論は、本誌1993年夏季号の井出・中神論文の、1980年代には土地価格が、長期的に均衡値に収束せず発散するという結果と相反するものである。なぜ、異なった結果が得られたか、今後の検討が期待される。
 
 小西論文「規模の経済性と産業別土地課税の理論」は、規模の経済が存在し、不完全競争の下にある産業が存在する経済について、差別的な固定資産税が与える経済効果の問題を扱っている。本論文においては、最適な土地課税問題を税収最大化と消費者の効用最大化の2段階に分けた接近方法が採られている。
 本論文で得られた検討結果は、3つある。まず第1に、完全競争的な産業と不完全競争産業が存在しても土地需要の生産弾力性が1である場合には、均一の固定資産課税を行うことが望ましい。第2に、土地需要の生産弾力性が1を上回る不完全競争産業の場合には、均一税率よりも低い固定資産税を課すことが次善の意味で望ましい。第3に、効率的な物品税課税は、消費への歪みと規模の経済への影響を考慮に入れたうえで行うことが望ましい。
 第3の点については、ミエツコフスキー以来、産業別に異なった固定資産税が賦課される場合には、生産物価格を押し上げる効果が発生することはよく知られている。本論文での検討結果によれば、固定資産税に前方転嫁効果があり、価格が上昇したとしても、価格を一定に保つように物品税で調整できるとの前提条件が満たされていれば、固定資産税と物品税の組み合わせによって税収を増加できる場合には、パレート改善的な税制改革が可能であることが示されている。最近の地価税のあり方についても、多くの示唆に富んだ論文である。
 本論文においては、企業は、クールノー的な数量競争を行うことが仮定されている。ベルトラン型の価格競争を行う場合には、ダイアモンド=マーリーズの均一固定資産税率が次善の意味で最適であるという結論が成り立つのかどうか検討することは、有益であろう。
 
 中井論文「英国の住宅価格の構成要素に関する実証分析」は、独自の調査に基づくデータ・ベースを利用してイギリスにおける住宅価格の決定要因を分析した論文である。
 イギリスでは、民間新規住宅供給の大部分は、住宅開発業者によって行われている。しかも、土地価格は、住宅価格が決定されたあと、残額評価法で決定されている。すなわち、土地価格は、主として住宅開発による総収入から建設・インフラ整備・利子・手数料費用、利潤を差し引いた残差として決定されているといわれている。同時に、イギリスにおいては、住宅の中古市場がよく発達しているので、新規住宅価格も中古価格との裁定関係によって決定される側面が強い。
 本論文の実証分析は、イングランド東部地方で地域開発を行っている10業者から61の開発について収集した土地価格、住宅価格などのデータに基づいて行われている。このミクロ・データを用いた分析結果によれば、実際に、住宅価格と平均土地価格には正の相関関係がある。さらに、高密度の開発地と低密度の開発地の住宅価格を比べると、前者のほうが低くなる傾向がある。また、開発密度と平均土地価格の間にも、正の相関関係が現れている。
 本論文では、開発密度と土地価格の正の相関関係を、単位面積当たり費用や利潤率が一定であるとの仮定の下で、高密度の開発地域の住宅価格が低いという事実と土地価格が残額評価法によって決定されているとの事実を組み合わせることによって解釈しようとしている。
 しかし、実際には、開発業者の利潤率は、開発地域すべてについて同一ではない。高密度の開発地域では、低い傾向がある。そこで本論文は、土地価格の決定について、高密度開発地域と低密度開発地域との間では土地所有者と開発業者の価格決定に関する力関係が異なっており、高密度地域では土地所有者の交渉力が強いのではないかとの推測を行っている。
 ところが、開発業者の利潤は、直接観察が可能でなく、推定した値を用いているので得られた結論の解釈については慎重であるべきであろう。高密度の開発地域の土地価格は、へドニック・プライス・アプローチによれば、インフラ整備がより進んでいるとの仮定の下では、当然高くなることが予想されるからである。
 日本の場合についても、分譲住宅の土地価格の決定がどのようにして行われているのか、興味深い問題である。日本の場合には住宅の中古市場が未発達であるのでイギリスの土地価格決定方式とはかなり異なっているものと思われる。いずれにしても、将来日本とイギリスの住宅土地価格の比較分析が行われることを期待したい。(K.I.)
価格(税込) 750円 在庫

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