タイトル | 季刊 住宅土地経済 2017年冬季号 | ||||
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発行年月 | 平成29年01月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | ページ | テーマ | 著者 |
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巻頭言 | 1 | オリンピック・パラリンピック後の東京を考える | 川本正一郎 | |
座談会 | 2-14 | 新たな「住生活基本計画」について | 浅見泰司・中川雅之・深尾精一・和田康紀 | |
論文 | 16-25 | 福島原発事故の地価への影響 | 田中健太・馬奈木俊介 | |
論文 | 26-35 | 京町家を考慮した木造住宅密集地域の外部費用の推定 | 安田昌平・宅間文夫 | |
海外論文紹介 | 36-39 | 住宅所有者のジレンマ | 藤野玲於奈 | |
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 外部不経済の影響を定量的に評価する手法として、不動産価格や地価を用いたヘドニック・アプローチが、しばしば用いられる。これは外部不経済の影響が地価に組み込まれる(資本化〈capitalize〉される)という考え方に基づいている。本号に掲載された2本の論 文は、いずれもこのアプローチを用いて、外部不経済を貨幣価値で評価しようとする試みである。 田中・馬奈木論文(「福島原発事故の地価への影響――ヘドニック・プライシングモデルによる影響分析」)は、福島原発事故にともなって放出された放射性物質のリスクを、放射線量の地価への影響を分析することで評価している。震災自体のリスクをコントロールするために、最寄り駅の状況のダミー、路線自体の被災状況ダミー、震災の死者負傷者数割合、人口密度の変化などを用いている。 放射線量と地価の変化率の関係を見ると、放射線量が高いほど地価が低下するという結果を検出している。興味深い結果としては、都市ガス供給地域では地価の上昇が見られることである。この理由として、震災後に、壊滅的な被害を受けた地域や避難指定地域から、都市ガスが供給されている地方中核都市へ人口移動が発生し、不動産需要が増加した可能性を示唆している。 そのうえで、二つ目の推計として、土地利用区分と放射線量の交差項を説明変数として用いて、放射線リスクが土地利用区分によって異なるのか否かを検証している。分析の結果、空き地との交差項については有意な関係を示さなかったが、その他の交差項については、地価の変化率と有意な負の関係が捉えられており、特に住宅地よりも、事務所や店舗より放射線量の増加に対して地価の下落率が大きくなる結果が見られるという。これについては住民の移住や売却の難しさを原因として指摘している。分析は、実際の原子力発電所の事故被害に基づく分析という点で、原子力行政にも影響を与えうる重要なものと言えるだろう。 なお、田中・馬奈木論文に限った問題ではないが、日本では多くの場合、不動産価格として公示地価を用いざるをえないケースが多いが、公示地価では、実際の取引価格だけでなく鑑定者の主観的評価が反映されてしまう。特に取引自体がほとんどない場合には鑑定者の評価が強く反映されてしまうだろう。上記の住宅地と事務所・店舗の下落率の違いもその影響による可能性も考えられる。 安田・宅間論文(「京町家を考慮した木造住宅密集地域の外部費用の推定」)は、京都市の町家の密集地のような、歴史的景観の観点からも容易には建て替えができないような木造住宅密集地域(以下、木密地域)における防災対策に焦点を当てて、その対策とこれらの地域における外部不経済の影響を分析している。 京町家は細街路とともに情緒ある歴史的街並みを形成している点で、通常のような道路の拡幅をともなう建て替えは、その景観や観光資源を破壊してしまうという点でも適用し難い。そのため、京都市の施策においては、歴史的細街路で特例許可基準を見直したり、 項道路の指定を用いたりするなど興味深い取り組みが見られるという。 京都市の木密地域において、ヘドニック・アプローチを用いてその外部不経済を分析する際の難しさは、京町家の集積に正の外部性があるため、負の外部性を過小評価してしまうおそれがある点にある。そのため、京町家密度を用いて、その正の外部性をコントロールしている。 この他、木密地域に居住する居住者の特性が異なる可能性があるため、この近隣外部性をコントロールするために最終学歴別人口比率を用い、集積の経済をコントロールするために商業集積密度を用いている。SUUMO の家賃データを被説明変数とすることで、公示地価の問題は回避されている。 推計結果は、マンション・戸建いずれも木密地域ダミーの係数は有意に負となっており、戸建のほうがより大きな値となっている。事務所系町家密度は有意に正であり、住居系町家については有意な値とはなっていない。商業集積密度はマンションについては有意に正だが、戸建については有意となっていない。大学・大学院卒業者密度は有意に正となっている。 これらの正の外部性をコントロールした結果、しない場合と比較して推計値の係数の絶対値は大きくなっている。コントロールする変数の選択など、外部費用を正確に評価するうえで参考にできる論考である。(H・S) |
価格(税込) | 786円 | 在庫 | ○ |
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