季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2021年冬季号
発行年月 令和3年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1不動産登記のリノベーション山野目章夫
座談会2-18コロナ禍とまちづくり朝比奈一郎・加藤智康・島原万丈・中川雅之・光安達也
特別論文20-25人口動態と住宅価格西村清彦
論文26-35 被災者の就業再開における近隣住民からのピア効果の検証近藤絢子
海外論文紹介36-39都市内鉄道と都市人口成長當麻雅章
内容確認
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 当時の田中角栄首相による日本列島改造論が発表された1972年以降、多少の増減はあっても、都道府県間や市町村間の人の移動者数は一貫して減少傾向にある。また2005年以降、日本は65歳以上人口比率が世界で最も高い国である。移動者数の減少や高齢化、そして人口減少が住宅市場に与えている影響は、今の都市問題の多くに関係している。
 特別論文として寄稿された西村論文(「人口動態と住宅価格」)は、割引現在価値の形で表される名目住宅価格関数を、従来のモデルであれば明示されない人口要因を定式化し、それを導入して推定を行なっている。ここでの理論背景は、マンキューらによる「アセットメルトダウン仮説」、すなわち出生率の低下や高齢化が実質住宅価格を大きく下落させるとの予測である。この仮説はその後、合理的期待仮説の点から多くの批判論文が出された。
 西村論文はこのような理論背景をもつ実証研究であるため、長期間に及ぶデータが必要なことと、それを補うために多くの国のデータを用いていることが特徴的で、17か国45年分のパネルデータを用いている。また人口要因の定式化においては、人口総数だけでなく年齢構成も識別できる形で導入されている。推定結果からも、これら年齢構成の係数値は有意に推定されており、名目住宅価格への影が認められる。最後に西村氏が指摘しているように、人口動態が住宅価格に影響を与える機会は近年、気候変動、災害、感染症など非常に多く、また大きい。これからの世界の姿にマッチした観点からの住宅価格の分析が重要である。

 経済学におけるピア効果については、古くは労働経済学の分野で、また最近は医療経済学や教育経済学の分野で実証研究が多くみられる。ピア効果は、人の行動が周囲に影響を与えているという点でいわゆる「外部性」であり、またピア(仲間、同僚)は、お互いの関係や距離が近いということでもあるため、都市経済学とも関係の深い考え方である。
 近藤論文(「被災者の就業再開における近隣住民からのピア効果の検証」)は、福島第一原子力発電所事故により職を失い、仮設住宅での生活を送ることになった人々の就業行動に「ピア効果」がみられることを、離職した人が再び職に就く就業再開のハザード関数を推定するというサバイバルモデルを応用して実証したユニークな研究である。
 この類の実証が難しい理由は2つある。1つはデータの設定である。社会科学の分野においては、ランダムな状況下において、処置群と対照群の設定がうまくできない。これを無視して効果の算出を行なうと結果に信憑性がなくなる。近藤論文で言えば、潜在的に就業する可能性が高い人々が同じブロックに住んでいるという傾向をとらえてしまう状況である。しかし、仮設住宅のブロック内の住民は同一の自治体でまとめられており、その中のどの住戸に住むかはまったくランダムに割り当てられている。ランダムであることがセルフセレクションの問題を解決し、同一の自治体で識別できることが固定効果によるコントロールを可能としている。自然実験のデザインにうまくマッチしている。
 2つ目はデータの利用可能性である。より分析結果の信頼度を高めるために、追加的なデータが必要な場合も多い。しかし、そのような好都合なデータは、特に個票データに関してはそうそう存在しない。ないものは自分たちで調査するしかない。本研究では、ピア効果がみられた背景のロジックとして、社会規範説を採用している。近隣住民に働く人が多ければ多いほど、自分もはやく就職しなければいけない、というプレッシャーを強く受け、就業する可能性が高まる。この理論を示すために、別の設問を行ない、今の幸せ度合いを周辺住民と比較してどう感じているかをたずねている。その結果、周辺の住民との比較度合い(ライバル心)と、就業率の高さが相関していることが示された。独自の調査により、いかに同じブロック内の他の住民の存在が自らの幸せに大きな影響を与えているかを補って分析している。
 以上のように近藤論文は、研究テーマの着眼やその結果が優れていることはもちろんだが、それ以上に自然実験となる状況をうまくデザインし、効果的な独自データを収集した点が秀逸である。(H・Y)
価格(税込) 786円 在庫

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