タイトル | 季刊 住宅土地経済 1994年春季号 | ||||
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発行年月 | 平成6年04月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 都市と人口問題を考える | 安芸哲郎 | ||
特別論文 | 土地保有課税の課税標準 | 田中一行 | ||
研究論文 | 現行SNAにみる住宅・土地分野 | 高木新太郎 | ||
研究論文 | 土地区画整理における住宅画地の形状評価 | 浅見泰司 | ||
研究論文 | 土地担保融資と地価 | 櫻川昌哉 | ||
海外論文紹介 | 鑑定評価に基づく不動産指数の修正 | 佐々木真哉 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 本号の論文は、国民所得統計における住宅・土地の扱いについての整理・分析、土地区画整理における住宅画地の形状に関する理論的考察、土地担保融資と地価の関係に関する分析と多彩な話題を扱っている。 高木論文「現行SNAにおける住宅・土地分野」は、1993年のSNA体系改訂を契機として、現行SNA体系における住宅・土地の扱いがどのようになっているかを、「住宅・土地サービスの生産と消費」、「住宅の資本形成(投資)と土地純購入」、「住宅・土地ストックと調整額」に分けて詳細に吟味したものである。しばしば、国民所得統計の細部にわたる部分は、利用者にとって必ずしもわかりやすいものとはなっておらず、住宅・土地に関するSNAでの扱いを詳細に論じた本論文は、国民所得統計の利用者にとって有益である。 住宅・土地サービスの生産と消費においては、製造業、建設業と比べて不動産業が、就業者の少ないこと、労働所得比率の低いことなど際立った特徴を持っていることが明らかにされる。ついで持ち家の帰属家賃についてそれが営業余剰として扱われていること、また土地の賃貸と住宅の賃貸は異なった扱いが行われており、帰属家賃は存在しても、帰属地代は存在しないことが示される。 ついで住宅投資と土地純購入について、貯蓄投資差額と資金過不足の誤差率を部門別に検討している。誤差率の大きいのは、金融機関と対家計民間非営利団体であり、誤差率が比較的小さいのは、非金融企業部門と家計部門であることが示されている。 最後に住宅・土地ストックについて、全国消費実態調査における推計額とSNAにおける推計額の比較が行われているが、その差はそれほど大きくないようである。本論文は、住宅投資の推計方法、部門分割の方法、減価償却率の方法についていくつかの改善策を提言しており、統計作成者に対しても多くの有益な示唆を与えていると言えよう。 浅見論文「土地区画整理における住宅画地の形状評価」は、土地区画事業における画地形状の評価を理論的に分析したものである。現実の土地評価方法は、「日本土地区画整理協会」によってその案がまとめられているが、理論的な合理性は必ずしも明瞭ではない。 本論文は、現実に購入者が存在しないという状況のもとで、換地作業に必要な土地評価をどのようにして行うべきかという問題を理論的に考察したユニークですぐれた分析である。本論文では、画地形状評価関数として「優加法性」、「連続性」、「微分可能怯」、「正値性」の4つの性質を備える必要があるとの観点から、現実に実務で使用されている土地評価方法を批判的に検討している。 現実に用いられている方法は、接道道路の路線価格と画地面積をベースにし、それにいくつかの修正係数をかけることによって土地評価が行われている。ここで修正係数には、「奥行逓減割合」、「間口狭小修正係数」、「奥行長大修正係数」の3つがある。本論文では特に、「奥行逓減割合」に焦点を合わせて検討を行っている。 著者は、まず現実に行われている島地に関する評価方法では、「奥行逓減割合」を導出する関数が、広義の凹関数となっていないために、「優加法性」(1つの土地を2つの土地に分割した場合に、元のままの土地の価値のほうが2つに分割した土地の価値の和を上回るという性質)、そして正値性(いかなる画地も地価を持っているという性質)も満たされないことを示す。 そこで著者は、現実に用いられている方法にかえて、島地を道路と平行な無数の短冊型に分割した土地の価値を距離減衰関数を用いて評価するという方法を提示している。そして、現実に用いられている「奥行逓減割合」関数を距離減衰関数として再定式化し、近似的な関数の当てはめを行っている。最後に著者は、「間口狭小修正関数」や「奥行長大修正係数」についても連続関数に変える必要があると論じている。 直接に観察可能な市場価格が存在しない場合に、土地の相対的な評価を正しく行うことはなかなか困難な作業である。一般に土地や住宅の価値は、土地や住宅の持つ特性に応じて異なった値をとる。ローゼンに始まるヘドニック価格は、そうした複数の特性を持つ財の価値を需要者による付け値で評価しようとする試みである。本論文において、距離減衰関数は、現実に実務で用いられている「奥行逓減割合」の近似関数として例示されているが、ヘドニック価格を用いて、道路からの距離が離れるに従ってどのくらい土地の価値が減少するか実証的に検討することは有益であろう。 櫻川論文「土地担保融資と地価?「協調の失敗」からのアプローチ」は、ゲーム理論と情報の経済学を応用して土地担保融資の果たす役割を論じた先駆的な論文である。 本論文における担保としての土地は、劣悪な投資プロジェクトを持つ企業と優良な投資プロジェクトを持つ企業に、自己選択(情報を持つ人が、結果的に自分の属性を教えることになる行動を自発的に選ぶこと)させる機能を果たしている。すなわち、土地価格が上昇すると期待される場合には、劣悪なプロジェクトを持つ企業は、投資プロジェクトを実行するよりも保有している土地を売却したほうが有利になるので、優良なプロジェクトを持つ企業のみが投資を行うことになる。 タンザニアにおいて高賃金が生産性を高め、経済発展を促進したことに着目したのは、ステイグリッツの「効率賃金」仮説であったが、本論文では、日本において高い地価が成長を促進し、経済厚生を高める機能を果たしている可能性が示されている。 地価の上昇が期待される場合には、優良なプロジェクトを持つ企業のみが資金の提供者(貸し手・株主)から資金を調達しようと考える「分離均衡」が成立するのに対して、地価上昇が低いと期待される場合には、優良なプロジェクトを持つ企業も劣悪なプロジェクトを持つ企業もともに資金調達をして投資を実行したいと考える「プーリング均衡」が成立し、過剰な投資が行われる。以上の結果、土地価格上昇率が高い場合には、優良なプロジェクトを持つ企業のみが投資を行い、一国の経済厚生も高まることになる。 本論文において地価上昇期待が果たす役割は、外部性が存在し、独占的な競争のもとにある企業の需要予測がGNPに影響を与えるケース(市場における「調整の失敗」)に類似している。 また、地価上昇期待は、穏やかなインフレの昂進が投資刺激効果をもつのと類似している。ある程度のインフレ期待は、実質金利の引き下げを通じて投資刺激効果をもつ可能性がある。しかし、インフレ昂進が価格の市場需給調整機能を損なう場合には、経済厚生を低める結果に終わるであろう。それと同様に、ファンダメンタルズから乖離した地価上昇期待は、一時的に成長促進効果があるとしても最終的には価格急落によって金融面での仲介機能を麻痺させるショックを引き起こすことになろう。また、これから事業を行おうとするすべての企業が土地を持っているとは言えないことも、本論文の結論を現実世界へ適用する場合、その有効性を弱めるように思われる。 本論文の一つのインプリケーションは、日本の株式持ち合いについてであろう。株式の持ち合いは、情報が完全であれば、単に自社株の買い戻しにすぎず、株価に影響が発生することはない。ところが情報の非対称性が存在する場合には、持ち合いを通じて企業の資産価値が高まり、借り入れがより容易になり、投資も促進されると考えられる。メインバンクによる株式持ち合いも、既存株主と負債保有者の利害対立を緩和し、取引先企業の投資を促進したと考えられる。 日本の株式市場には、新規株式の発行時点で株式の価格が急騰するというアノマリーが存在している。これは、通常の情報の経済理論が教えるところとはまったく正反対の出来事である。アメリカでは通常、新規株式の発行に際しては、株価の下落が発生する。それは企業のマネジャーと新規株主の間に情報の非対称性が存在するために、発行市場で「逆選択」(優良な投資プロジェクトをファイナンスしようとする企業が発行市場から駆逐されること)が、発生するからであるである。(K.I.) |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
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