タイトル | 季刊 住宅土地経済 2022年冬季号 | ||||
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発行年月 | 令和4年01月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | ページ | テーマ | 著者 |
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巻頭言 | 1 | 住宅の建て方の移り変わり | 大竹文雄 | |
座談会 | 2-16 | 防災を意識したこれからのまちづくり | 木内望・堤洋介・中井検裕・山鹿久木 | |
論文 | 18-26 | ソーティングと地域間賃金格差 | 中島賢太郎 | |
論文 | 27-35 | 高次元性を考慮した介護サービスの効果検証 | 菅原慎矢 | |
海外論文紹介 | 36-39 | 高潮による浸水被害と不動産価格 | 安田昌平 | |
内容確認 | 未公開 | |||
エディ トリアル ノート | 今号の2本の論文は、住宅・土地経済を直接研究した内容ではないが、それを対象とする研究者に課題を投げかける内容になっている。 ◎ 大都市の賃金はその他の地域の賃金に比べてなぜ高い傾向にあるのだろうか?その要因として挙げられるのが集積の利益である。大都市では、労働市場の厚みや知識の伝播を通じて労働者の特徴を活かし、生産性を引き上げ、賃金の上昇をもたらすと考えられる。しかし、集積の利益とは別に、そもそも生産性の高い労働者が大都市を選択しているから大都市の賃金が高いことも考えられる。これはソーティングと呼ばれる現象である。 中島論文(「ソーティングと地域間賃金格差」)は、このソーティングに伴う地域間賃金格差を日本の個票データを用いてはじめて実証したNakajima and Okamoto(2020)*を紹介している。 推計では、賃金を集積の経済を測る地域固有の影響だけではなく、労働者が備える能力・技術に依存する形で推計し、実際の地域間賃金格差のどの程度がソーティングによってもたらされるのかを識別できるように工夫されている。ここで問題になるのは観測できる情報だけで労働者が備える能力・技術を捉えられるかという点である。中島論文では個人の情報が十分に取得可能なデータを用いることでこの問題の影響を最大限小さくする努力がなされている。 実証分析の結果、実際の格差(大都市はその他の地域に比べ約24%高い)のうち4割程度がソーティングによりもたらされることを確認している。 中島論文では、出身地が賃金に影響すると考え、労働者の移住による効果も検証できるように設計されている。これは労働者の移住がソーティングを促進すると考えられるからである。分析結果は、大卒者のような生産性の高い労働者を中心とした移住が地域間賃金格差に大きく寄与することを明らかにしている。 集積の利益やソーティングは住宅価格や土地価格の地域間格差にも影響すると思われる。この点は、住宅・土地問題研究者にとっての興味深い研究対象になるだろう。 ◎ 日本では、都市部を中心として要介護者が自宅に居住したまま受けられる介護サービス(居宅系サービス)が充実している。介護保険では30種類以上の居住系サービスが提供され、利用者はこの中から自身の状況にあったサービスを組み合わせて選択する。この高次元の組み合わせのなかで、果たしてどのような組み合わせが要介護者の健康状態の改善に役立つのだろうか?\ 菅原論文(「高次元性を考慮した介護サービスの効果検証」)は、このことを検証したSugawara(2021)**を紹介している。 菅原論文では14種類の居宅系サービスに限定しているが、これでも組み合わせは約1万6000通りにのぼり、どの組み合わせが望ましいのかを統計的に検証することは難しい。そこで、使用頻度の高い組み合わせを検索できるバスケット分析を用いて、要介護者に利用されやすい組み合わせを選び出し、これらの組み合わせのうちどの組み合わせが効果的なのかを検証している。この結果、利用頻度の高い組み合わせは200種類程度に絞られ、その中で特に健康改善効果が高いのはリハビリテーション・サービスが含まれる組み合わせであることを確認している。 菅原論文のもう一つの貢献は介護問題に迫るための利用可能なデータの紹介、およびその利点と欠点をていねいに紹介している点である。介護問題と住宅問題の2つの関係に興味のある研究者にとって、介護データに関する概要は貴重である。 介護保険の居宅系サービスには住宅改修費の補助が含まれる。しかし菅原論文では、住宅改修とその他居宅系サービスの組み合わせによる健康改善効果は検証されていない。この点は、住宅・問題に関心のある研究者にとって今後の研究課題になるかもしれない。 (S・I) *Nakajima, K. and R. Okamoto(2020)‟Measuring the Sorting Effect of Migration on Spatial Wage Disparities in Japan,”『応用地域学研究』第2019巻第23号、1-21頁。 **Sugawara, S.(2021)‟What Composes Desirable Formal At-home Elder Care? An Analysis for Multiple Service Combinations,”Japanese Economic Review, forthcoming. |
価格(税込) | 786円 | 在庫 | ○ |
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