季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2023年冬季号
発行年月 令和5年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1空き家政策の行方金本良嗣
座談会2-14住宅・建築物におけるデジタル技術の新たな展開板垣勝彦・志手一哉・直井道生・渡邊朗子・武藤祥郎
論文16-25新型コロナ下の在宅勤務と今後の展望森川正之
論文26-35長期空き家の負の外部性鈴木雅智・樋野公宏・武藤祥郎
海外論文紹介36-39再開発における需要の役割岩合新太郎
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 今号は住宅市場に影響を及ぼす要因について考察した2本の論文を掲載している。

 在宅勤務は働き方改革の柱の一つとして期待されていたが、その普及率は低水準であった。しかし、新型コロナ感染症の発生・拡大がこの状況を一変させた。森川論文(「新型コロナ下の在宅勤務と今後の展望」)は、新型コロナ下の感染拡大の抑制と経済活動を両立させるため急拡大した在宅勤務の実態を把握し、関連する内外の研究を紹介しつつ、今後の在宅勤務の課題と展望を整理し、4つの発見・示唆を得ている。
 第1に、新型コロナ禍によって在宅勤務は半ば強制的に急拡大し、その後、徐々に減少したものの、新型コロナ発生前の水準を大幅に上回る状況をもたらした。サーベイ調査からは、在宅勤務の実現可能性は個人特性や企業特性の異質性が極めて大きく、高学歴や高所得、大企業に勤務するホワイトカラーの利用率が高く、在宅勤務が労働市場における格差を拡大する傾向が示唆された。
 第2に、すべての労働者が在宅勤務の働き方を利用できるわけではなく、利用できる労働者であっても職場出勤とのハイブリッド在宅勤務は例外的であることである。在宅勤務の総労供給量が最大でも市場全体の10%前後と試算している。
 第3に、在宅勤務の生産性は職場での生産性よりも平均的に2~3割低く、在宅勤務が労働者にとってアメニティ価値が高い働き方であることが示唆されている。
 第4に、労働者の多くが新型コロナ終息後も現在と同程度の頻度での在宅勤務を希望しているのに対して、企業の半数以上が終息後は職場勤務への回帰を予定していることである。在宅勤務と職場勤務の生産性や在宅勤務の補償賃金格差等の観点からは、賃金の調整が必要となる可能性があるが、在宅勤務と職場勤務の生産性を正確に把握することは難しく、当分の間は最適な在宅勤務のあり方の試行錯誤が必要であると結論づけている。
 在宅勤務は職場出勤頻度を変化させ、居住地・住宅選択の意思決定を通して、住宅市場に影響を及ぼすと考えられる。この研究の今後のさらなる発展に期待したい。

 2018年の住宅・土地統計調査によると空き家は849万戸、空き家率が13.6%である。近年、適正な管理がなされず周辺に外部不経済をもたらしうる空き家の存在が顕著となり、社会的な関心が高まっている。長期化した空き家は物理的に劣化するだけでなく、心理的な側面も含めて周辺の住環境を悪化させる。鈴木・樋野・武藤論文(「長期空き家の負の外部性――東京圏の人口減少都市における検証」)は、人口減少都市である横須賀市を対象とし、2016-19年のレインズ成約物件データとゼンリンの空き家コンテンツをマッチングして構築したデータベースを用いて、長期空き家の外部費用を推計・検証し、3つの知見を得ている。
 第1に、長期空き家が及ぼす外部性の影響範囲は約50m で、空き家の周辺住宅では50m以内の空き家数の1軒増加がその取引価格を約3%低下させる。これは空き家周辺に4件程度の住宅が存在すれば、空き家1軒の除却便益がその除却費用を上回り、空き家除却費用の公的補助の正当性を示唆する。
 第2に、1-2年で解消される空き家は外部性が確認されないが、積極的に住宅市場に出されていないと考えられる空き家状態が3年以上の物件は、空き家状態になって3年目から外部性が確認される。最終的に空き家が解消される物件では解消前年から外部性が見られなくなる。
 第3に、長期空き家が少ない地域ほど、長期空き家が周辺の住宅取引価格に及ぼす外部性が大きく観察される。
 鈴木・樋野・武藤論文は、空き家状態で空き家の外部性が発現するのではなく、住宅市場で売却したり利活用したりといった意思や行動が見られなくなって管理が疎かになることによって、周辺に住環境上の悪影響を及ぼすと考え、また、住宅取引が行なわれていて著しい衰退はみられない地域において、長期空き家の抑制政策が住環境の悪化を軽減する効果が高い可能性を示した。これは地域ごとの社会経済状況に応じた空き家政策が求められることを示唆していて、今後の空き家対策に資する研究と言える。(F・T)
価格(税込) 786円 在庫

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