タイトル | 季刊 住宅土地経済 2023年夏季号 | ||||
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発行年月 | 令和5年07月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | ページ | テーマ | 著者 |
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巻頭言 | 1 | コロナ禍の後のオフィスや住まいについて | 海堀安喜 | |
特別論文 | 2-7 | 人口減少下の国土のビジョン | 中川雅之 | |
論文 | 10-19 | 母子世帯の子供の貧困と空間クラスター | 河端瑞貴・安部由起子・柴辻優樹 | |
論文 | 20-26 | 環境性能が集合住宅の販売価格および中古取引価格に与える影響 | 髙田秀之・吉田好邦・川久保俊・山口歩太 | |
論文 | 27-35 | 東京圏の民間賃貸住宅市場における入居審査と家賃滞納 | 鈴木雅智・川井康平・清水千弘 | |
海外論文紹介 | 36-39 | 障害者と公的住宅居住 | 伊藤翼 | |
内容確認 | 未公開 | |||
エディ トリアル ノート | 今号では、住宅土地経済に直接的あるいは間接的に大きな影響を与える要因を分析した3本の論文を掲載している。 ◎ 1つめは、日本の母子世帯が全国を対象にどのように空間的に集積しているのかを実証した論文である。2018年の日本のひとり親世帯の貧困率は48.3%と、OECD諸国平均の31.9%より顕著に高い(OECD Family Database)。子供の貧困は世界各地の特定の地域に集積しており、国際的な関心が高く、貧困対策が重要な政策課題であると議論される一方で、貧困地域で暮らす子供の空間不平等に関する研究蓄積は、居住地域が子供のwell-beingにおいて重要であることや、多くの母子世帯が低所得地域に集中していることなどを指摘している。特に、日本は先進国の中で著しく母子世帯の子供の貧困率が高く、2000年から2010年にかけて母子世帯数が約63万から約76万へ大幅に増加しているが、母子世帯の空間集積パターンを分析した研究は少ない。 河端・安部・柴辻論文(「母子世帯の子供の貧困と空間クラスター」)は、日本の母子世帯の空間的集積パターンを分析して、母子世帯の子供が国内のどの地域に集積し、2000-2010年の間にどのように推移して、母子世帯の子供がどのような地域で増えたのかについて明らかにしている。 母子世帯では、母親の多くは子供が乳幼児期にひとり親になっており、母親の就業率は高いが、多くが低賃金・非正規雇用で働くワーキングプアである。子供の乳幼児期は時空間制約が大きいため、正規職で働くことや求職活動が難しい。これがシングルマザーの就業による貧困脱出を困難にし、ひとり親世帯の貧困が固定化する一要因となっている。 このような状況を踏まえて、政府は2013年に「子供の貧困対策の推進に関する法律」を制定し、2014年閣議決定で子供の貧困の実態をさらに調査する必要があること、また2019年有識者会議では子供の貧困対策の取り組みに地理的な格差を考慮する必要があることを提言している。このような背景から、河端・安部・柴辻論文では、全国を対象とし、2000年、2005年、2010年の市区町村パネルデータを作成し、母子世帯の子供が国内のどの地域に集積しているかについてはLocal Moran’s I統計量を用いて、母子世帯の子供率と地域の特徴との関係は空間パネルデータモデルを用いて検証している。 実証分析では、\_c09974母子世帯の子供は全国の自治体で均一ではなく、集積地域が存在すること、特に子供率が高い集積地域は北海道と西日本に見られること、\_c09975母子世帯の年長の子供(6-18歳)は年少の子供(6歳未満)よりも特定の地域に集中する傾向が強く、この傾向が2000-2010年の10年間で強まったこと、\_c09976母子世帯の子供率は平均所得が低く、転出率の高く、保育所供給率が低い自治体で上昇したこと等、多くの知見を得ている。特に、母子世帯の子供は所得の低い自治体に居住する傾向が高く、貧困世帯への支援の需給に空間的なミスマッチが生じている可能性がある。社会的弱者にも最低限の居住環境を保障することは住宅政策の役割の一つであり、そのためにも母子世帯の支援が不足している地域の特定は喫緊の課題である。この観点から本研究の今後のさらなる発展に期待したい。 ◎ 2つめは、環境性能を示す指標が集合住宅の不動産価値に及ぼす効果を実証した論文である。近年、海外では、環境性能と不動産価値に関する研究が多数蓄積され、さらにSDGsへの取り組みなどの持続可能な社会の実現に向けた企業行動がグローバルな共通認識となり、不動産の環境性能が賃料等の経済性に与える影響に着目した不動産投資を拡大させる動きにつながっている。一方、日本では、オフィスビルを対象とした環境性能と不動産価値の関係について検討した研究は多数あるが、集合住宅を対象とした同様の研究は少ない。 髙田・吉田・川久保・山口論文(「環境性能が集合住宅の販売価格および中古取引価格に与える影響」)は、環境性能を示す指標としてCASBEE(建築環境総合性能評価システム)に着目し、横浜市内で分譲された集合住宅を対象として、環境性能評価が新築分譲価格や中古取引価格に及ぼす影響を明らかにしている。 CASBEEは戸建や建築物、街区、都市などの環境性能をさまざまな視点から総合的に評価するツールであり、建築物の環境性能で評価し格付けする手法で、横浜版CASBEEは建築物(新築、既存、改修)を含み、制度が2005年に導入されて10年以上の運用実績がある。分析データはマンションの販売データをCASBEE横浜で認証されたマンション物件に建物名称および位置情報を用いてマッチングして作成した485物件を利用している。 実証分析はヘドニックモデルを採用し、マンションの環境性能や建物特性などの説明変数で被説明変数(新築分譲単価や中古価格変化率)を推定・検討している。 実証分析からは、\_c09974総合指標BEE(環境効率)の1ポイント上昇が新築分譲単価を約5.5%上昇させ、\_c09975BEEの1ポイント上昇が中古価格変化率に約1.63%のプラスの影響を及ぼすことが確認された。髙田・吉田・川久保・山口論文は、新築分譲価格と中古取引価格の2面から環境性能と不動産価値の関係を分析した点に特徴があるが、分析に用いたデータが横浜市という限られた地域を対象としている点は分析結果の一般性の観点から注意が必要であろう。しかしながら、環境性能と不動産価値の関係が明らかになることは供給者サイドのみならず、需要者サイドにも有益な情報である。この観点から本研究の今後のさらなる発展に期待したい。 ◎ 3つめは、民間賃貸住宅の入居審査に対する差別の存在を検証した論文である。社会的弱者にも最低限の居住環境を保障することは住宅政策の果たす役割の1つであり、例えば、弱い立場にある人々に対して公的住宅が供給されてきた。しかし、近年は民間賃貸住宅の担う役割が大きくなりつつある。日本では借地借家法により借家人の保護側面が強く、家主が相対的に弱い立場にある。このため、家主は入居者の受入時に家賃滞納などのさまざまなリスクを勘案して入居審査を厳しくするインセンティブを持ち、その結果、一般的な賃貸住宅の借り手ではないタイプの入居希望者は入居を断られる可能性がある。 鈴木・川井・清水論文(「東京圏の民間賃貸住宅市場における入居審査と家賃滞納」)は、東京圏の民間賃貸住宅市場の入居審査において、非典型的な入居者に対する「差別」の存在を検証している。鈴木・川井・清水論文は、入居者レベルの入居審査プロセスや入居後の家賃滞納記録のデータを利用して、特徴的かつ独創的に実証している。まず、入居審査時に生じる差別を、\_c09974偏見に基づく差別、統計的な差別として\_c09975特定の入居者タイプで家賃滞納リスクが高い傾向があるという差別、\_c09976特定の入居者タイプで入居を受け入れることに伴う近隣トラブル(高齢者の孤独死リスクや子育て時の騒音トラブルなど)などを生じさせるリスクが高い傾向があるという差別の3分類に整理する。そして、差別の対象となりうる入居者タイプは「住宅双六」に当てはまらない世帯構成が非典型的な入居世帯(単身高齢者、高齢夫婦、シングルファザー+子供、シングルマザー+子供、未婚カップル+子供、その他日本人〈友人と同居等〉、外国人に区分される世帯)の可能性が高いと考えて実証している。 実証分析は二段階プロビットモデルを採用し、第一段階で家賃滞納の有無を説明するプロビットモデルを推定し、第二段階で入居審査の結果を説明するプロビットモデルを推定・検討している。 実証分析からは、第一段階では一部の非典型型な入居者(未婚カップル+子供)を除いて、非典型的な入居者が単身男性に比べて家賃滞納の可能性が高いとは言えないという結果、第二段階では家賃滞納の期待確率が高いと入居審査に通りにくく、経済的合理性を持った審査が行なわれている一方で、入所者タイプについて、単身高齢者、シングルマザー、その他日本人、外国人といった非典型的な入居者が支払能力を含めた客観的属性から推測された家賃滞納への至りやすさをコントロールしても、入居審査に通りにくい傾向があるという結果をそれぞれ得ている。 これらの分析結果は賃貸住宅への入居を希望する世帯が多様化している現代社会では合理的でない理由から賃貸住宅をスムーズに借りられない事態が生じていることを示し、鈴木・川井・清水論文では、非典型的な入居者の経済的安定性を担保できる仕組みづくりが重要であると指摘している。この観点から本研究の今後のさらなる発展に期待したい。(F・T) |
価格(税込) | 786円 | 在庫 | ○ |
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