タイトル | 季刊 住宅土地経済 1994年夏季号 | ||||
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発行年月 | 平成6年07月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 職と住の調和した「東京」をめざして | 長裕二 | ||
特別論文 | 東京集中問題を考える | 木谷正道 | ||
研究論文 | 譲渡所得税の凍結効果と中立課税 | 金本良嗣 | ||
研究論文 | 地域別公共資本の生産拡大効果 | 吉野直行・中野英夫 | ||
研究論文 | インフラストラクチャー投資の地域間配分 | 高橋孝明 | ||
時事展望 | 土地利用規制の不備は地価高騰の要因ではない | 原田泰 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 本号には、譲渡所得税の凍結効果に関する理論的論文、公共投資の地域間配分との関連でわが国の地域別生産関数の構造を分析する実証研究である第2論文、および公共投資の地域間配分の最適解を追究する理論的論文の3編が掲載されている。いずれもかなり難解な論文であるが、地域経済の最重要な諸問題を扱っており精読によって得るところが大きいであろう。 土地売却に対する譲渡所得税の課税は、土地の売り惜しみという「凍結効果」を惹起すると言われる。他方、地価高騰に伴うキャピタル・ゲインに対しては、効率性および公平性の両方の見地から、課税が絶対に必要である。このような問題意識から、多くの論者が、凍結効果という歪みを生じないような、つまり中立的なキャピタル・ゲイン課税についての種々の提案をしてきたが、この問題はなお完全に解決されているとは言えない。金本論文「譲渡所得税の凍結効果と中立課税」は、この大問題に対する統一的な分析であり、いわばそれへのfinal wordsを与えようとする試みである。著者はまず需給価格均衡モデルによって凍結効果あるいは逆凍結効果(課税によって売却時点がむしろ早まること)が発生するための条件を、用途別(農業用あるいは住宅用)地代の差額、土地の取得原価格、その現在価格と次期予想価格、新しい買い手の予定保有期間数、および市場利子率の間の関係として明確に規定し、原取得価格の高低が凍結効果ないし逆凍結効果を発生させる重要な要因となることを示す。 次に著者は、1972年に小宮・村上両氏によって提唱された「未実現キャピタル・ゲイン税」が、もし技術的に実行可能であるならば、正確に中立的であることを、同様なモデルによって論証する。2番目に検討されるのは、1977年に岩田規久男氏が提唱した「含み益利子税付き譲渡所得税」であり、それが未実現キャピタル・ゲイン税の持つ納税者の支払い能力の問題を回避しつつ、後者と同じ中立性を持っていることが証明される。3番目の検討対象は、八田達夫氏(1993)による「売却時中立課税」および「みなし物納方式の含み益売却時課税」の提案である。前者の実行にあたっては、土地の保有期間中の収益率の規定が必要であり、その定義は不確実性の存否に応じて変わってくる。この方式においての収益率評価の技術的困難性を一部克服するために案出されたのが後者であり、それは未実現キャピタル・ゲイン税の場合に等しい税額の現在価値を結果するので、それと同じ中立性を有することが証明される。 以上の諸方式はすべて、土地保有期間の全体について、含み益したがって各期の土地価格の評価を必要とするものである。この評価が正しくなければ、課税の売却時点に関する中立性は失われる。最後に検討されるAuerbach(1991)の「Auerbach版売却時中立課税」では、地価の上昇率を代替資産の利子率に等しいと考えて各期の地代への課税率を決定することにより、保有期間の途中においての地価評価が不要になる。この方式は、実は地価税の延納をみなし物納方式で行った「みなし物納方式の地価税売却時課税」と同値となり、地価税の売却時点に関する中立性より、この方式も同じ中立性を持っている。 本論文は、種々の方式の土地税の売却時点に与える効果というこみいった問題を、土地の供給価格と需要価格の均衡モデルという統一的な手法によって厳密に解明した貴重な貢献であると言えよう。 地域経済に配分されたインフラストラクチャーとしての公共資本Sは、直接にその地域の生産力Yを高めるとともに、協働する地域民間資本および地域労働の限界生産力を高めることによって、これら生産要素の他地域から当該地域への流入を誘発し、その面からも地域生産力を向上させる。吉野・中野論文「地域別公共資本の生産拡大効果」では、第1の効果を公共資本の直接生産効果、第2の効果を同じく間接生産効果と呼び、わが国の9地域についてそれらの大きさをYとSの間の弾力性(直接(偏)弾力性プラス民間資本および労働を経由する2つの間接弾力性)の形で実証的に推定することを試みている。両氏は、理論モデルの展開は一般的な(ただし公共資本を第3独立変数として含む)生産関数によって展開し、9地域の1975?1984時系列データによる実証分析では、それをトランスロッグ型に特定して推定を行っている。操作変数法による推定結果はおおむね良好である。分析の主題についての結論は、(1)公共資本の直接効果は大都市圏のほうが地方圏よりも大きい、(2)公共資本の民間資本経由の間接効果も、大都市圏が地方圏を大きく上回っている、(3)公共資本の労働経由の間接効果にはあまり地域間格差がない、しかしやはり大都市圏のほうが大きいという傾向が見られる。 著者たちによれば、このような地域別生産構造の格差が、1970年代後半から80年代を通じての、設備投資、就業者の大都市圏とりわけ首都圏への集中を引き起こし、その結果、地価上昇率の地域間格差をもたらしたと考えるべきである。問題は、ここに明らかにされたような地域間生産構造に、後述の高橋論文のような視点を導入するとき、今後わが国の公共投資の地域間配分は、集中的に行われるべきか、思い切った分散型に転ずるべきかという政策判断についての分析の必要性であろう。 吉野・中野氏による本論文は、明確な問題意識と手法の厳密さの意味で、既存文献の水準を大きく超えた優れた業績であると評価できる。 異質の財E,Wの生産におのおの特化した2つの地域があり、各地域の労働生産性は中央政府の公共投資によるインフラ整備によって向上しうるとしよう。このとき、公共投資の地域間配分は集中的に行われるべきであるか、分散的に行われるべきであるか。高橋論文「インフラストラクチャー投資の地域間配分:理論的考察」は、単純ではあるが厳密で完結した一般均衡論的モデルによって、この問題を分析したものである。各財は固定生産係数(aE,aW)による労働のみの投入によって生産される。消費者としての労働者は、両財の消費量に関して対称的な形を持つCES型の効用関数を持っている。中央政府は消費者の所得に課税することによってインフラ整備のための公共投資?の財源を得る。以上のような状況の下で、各地域の労働人口が与えられるならば、両財の相対価格したがって両地域間の交易条件、各地域消費者の各財消費量、さらに各地域消費者の効用水準(VE,VW)、最後にペンサム型に定義された社会厚生水準Ωがすべて、労働人口配分(LE,LW)の関数として決定される。しかし、Ωは同時に生産係数および税額としての公共投資の関数である、すなわち、それはΩ(LE,LW,aE,aW,I)という形をとる。労働力の地域間移動が完全に自由であるならば、VE=VWという条件が付け加えられ、Ωは(aE,aW,I)のみの関数となる。 最後に、インフラ整備の生産性効果af=f(Ii),i=E,W(IiはIのi地域への配分量)を導入すれば、Ωを最大化する公共投資配分を決定するという問題を定式化して解くことができる。 著者はいくつかのケースに分けて、この問題の解を分析している。まず、前述の労働移動完全自由の場合、生産性効果fが規模に関し収穫逓増あるいは収穫一定であるならば、一地域集中政策が最適となる。またfが収穫逓減であったとしても効用関数において両財間の代替弾力性が十分大きければ、やはり集中政策が最適解となる。 著者はさらに、両地域間の労働移動性がゼロの場合およびそれがゼロではないが不完全な場合のおのおのについて同様な分析を進めている。前者については、fが収穫逓増あるいは一定であってもσが十分大きくなければ集中政策が最適解にはならない。後者の場合は、集中政策が最適解となる可能性は、完全移動の場合と移動ゼロの場合の中間となり、均等成長政策を排除する条件が厳密に規定される。 結局、fの収穫逓増性、σの大きいこと、労働の移動性が高いこと、という3条件のすべてが集中政策を有利とする方向にはたらき、均等成長的公共投資配分政策が最適とされる条件が成立する可能性はきわめて小さいことが結論される。高橋氏による本論文は、国家間、地域間の不均等成長の条件を探るPaul Krugmanの有名なモデル(Journal of Development Economics,1981)の系列に属する明快な分析であると高く評価される。(N.S) |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
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