タイトル | 季刊 住宅土地経済 2025年冬季号 | ||||
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発行年月 | 令和7年01月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | ページ | テーマ | 著者 |
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巻頭言 | 1 | 住生活基本計画の見直し | 楠田幹人 | |
座談会 | 2-14 | 住宅の省エネ、再エネ対策 | 秋元孝之・中川雅之・前田亮・槇原章二・増川武昭 | |
論文 | 16-24 | 後方屈折する労働供給と住宅立地 | 田渕隆俊 | |
論文 | 26-35 | 地球統計パネルモデルを用いた都道府県別空き家率の将来予測 | 武藤祥郎・菅澤翔之助・鈴木雅智 | |
海外論文紹介 | 36-39 | 株式投資型クラウドファンディングにおいて生じる地元偏重とその緩和 | 寺山椋 | |
内容確認 | 未公開 | |||
エディ トリアル ノート | 労働者が労働時間と余暇時間を配分するために、どこに居住するかは、都市経済学において重要なテーマであり、数多くの論文がある。相対的に低所得の世帯が都市中心部に居住し、高所得世帯が郊外に居住する都市もあれば、高所得者が中心部に居住する都市もある。しかしながら、高齢者が増え、労働参加率の低下している日本では、さまざまな所得階層の世帯が混在する傾向にある。 田淵論文「後方屈折する労働供給と住宅立地」は、このような日本の都市での世帯の居住状況を説明する理論モデルを構築し、実証を試みた論文である。 田淵論文では、労働供給と賃金の関係を、労働者は賃金率が上昇すると労働時間を増加させるが、その後減少する後方屈折型労働供給曲線を仮定している。次に、単一中心都市の空間を導入し、賃金率の変化が、労働者の都市内部における立地と労働供給に与える影響を見ている。都市における中心業務地区(Central Business District: CBD)から、郊外にむけて通勤鉄道が放射状に延びている単一中心都市が仮定されている。東京大都市圏に関しては、東京駅から半径50㎞以内では、この仮定が妥当することが確認されている。このような都市圏に居住する住民は、労働者としてCBDに通勤費用を負担して通勤し、家賃を払う。付け値地代は、CBDからの距離に応じて低下する。 このような仮定のもとで、都市に居住する労働者の賃金と賃金の閾値 left lparen w barFH 75 right rparen を導いている。都市での全員の労働者の賃金が閾値よりも低い場合には、所得の高い家計ほど郊外に住み、都市での労働者の賃金が閾値よりも高い場合には、所得の低い家計が郊外に住む。一部の労働者の賃金が閾値より高い場合や、閾値よりも低い場合が混在する都市では、CBDに低所得層と高所得層が混在して立地することになる。これが日本の大都市で見られる現象であると説明している。 理論モデルにより明らかにした命題を、所得階層別の都市圏内の住み分けを「住宅・土地統計調査」の1973-2003年の3大都市圏のデータにより検証している。その結果、東京大都市圏と名古屋大都市圏では、低所得層、高所得層がCBD近くに立地し、中間層が郊外に立地する傾向が確認されている。 ここでの分析を拡張し、一つの所得階層内に複数の年齢階層がいる場合、在宅勤務など勤務形態の選択肢が増えた場合の分析の際にも、示唆に富む研究である。 ◉ 空き家は、直接的に土地や建物の有効利用を妨げ、負の外部性をもち周辺の物件にも影響を与える。空き家率は、労働市場の失業率にも対応し、住宅市場の状態を示す重要な指標である。この空き家率を新たな手法により予測するモデルを構築しているのが、武藤・菅澤・鈴木論文「地球統計パネルモデルを用いた都道府県別空き家率の将来予測」である。 武藤・菅澤・鈴木論文では、空き家の発生の多くが相続に関して生じることに着目し、空き家率を人口統計に関する変数で説明し予測を試みている。さらに、地球統計モデルを用いることにより、変数だけではとらえきれない、都道府県の近接性に関する地域特性をコントロールしている。このような分析により、高齢化が急速に進む日本における相続をきっかけとした空き家率の予測を可能にしている。 武藤・菅澤・鈴木論文において、予測での利用を提唱されているモデルは、動的空間効果モデル(Dynamic Spatiotemporal Effects model: DSE)で、観察できない空間効果を誤差項にもち、これが時間方向では自己相関をし、隣接地域と空間的な相関を持つものである。推定には、尤度関数が複雑になるため、事前分布を導入した事後分布をギブス・サンプラー(Gibbs sampler)により、推定パラメータの分布を求める、ベイズ推定の方法が採用されている。実験データにより、モデルの有効性も検証している。 その結果によれば、時空間効果を持つモデルの推定には、通常のパネルデータ・モデルや空間自己相関を考慮したモデルよりも、将来予測に優れていたことが示された。 このモデルを用いて、「住宅・土地統計調査」で調査されている1988年から2018年までの7期間の47都道府県の、空き家として問題となる「その他空き家」を予測している。2018年の空き家率を予測し、他のモデルより高い予測率が示された。類似のモデルの他への応用例についても言及されており、関心のある読者には有益な文献となると考える。(K・S) |
価格(税込) | 786円 | 在庫 | ○ |
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