季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1994年秋季号
発行年月 平成6年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言「定期借地権」雑感稻本洋之助
特別論文ニューヨークの家賃規制と日本の借家法八田達夫
研究論文リスク・プレミアムと消費岩田一政
研究論文日本の公的住宅金融における信用割当とローン需要森泉陽子
研究論文マンションのヘドニック価格と超過収益率の計測田辺亘
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 本号には、広い意味での、リスク・プレミアム計測に関する論文が2編、公的住宅ローンに対する需要を分析する論文1編が掲載されている。いずれも、厳密な理論モデルに基づき、厳密な統計的手法を駆使した、水準の高い実証的研究である。おのおの使用されている統計データの出所に注意しつつ、熟読して戴きたい。
 
 第1論文は岩田氏による「リスク・プレミアムと消費」である。今回の不況において、資産価格低下の家計消費に対する悪影響がよく論じられる。いわゆる「負の資産効果」である。しかしながら、より厳密に考えるならば、消費者は異時点間にわたる消費パターンと資産選択とを同時に最適決定するのであるから、消費者にとっての資産価格の均衡値と彼の消費水準との関係は因果関係ではなく、同時決定的な相関関係にあるものと言わなければならない。岩田論文は「消費に基づく資本資産評価モデル」と呼ばれるものを理論モデルとし、1956?89年のわが国のデータを用いて、上述の関係を実証的に分析したものである。同時に同氏の1991年論文(本誌同年秋季号)で論じられた「リスク・プレミアム・パズル」の問題が再び取り上げられる。
 「相対的リスク回避度一定」の効用関数を仮定し、異時点間予算制約の下で期待効用の割引現在価値を最大化するならば、安全資産に関しては、その収益率と消費者の主観的割引率、相対的リスク回避度、期待された実質消費増加率の平均と分散の間に明示的な関係が成立する((7)式)。他方、危険資産の期待収益率は、安全資産の場合と同じ諸要因プラス危険資産の収益率と消費の増加率の共分散に規定されることになる((9)式)。したがってまた、上記両資産の期待収益率の差、すなわち危険資産のリスク・プレミアムは、相対的なリスク回避度、消費増加率と超過収益率の間の相関係数、消費増加率の標準偏差、超過収益率の標準偏差によって規定される((11)式)。
 岩田論文の後半は、これらの関係式を実証的に吟味することにあてられる。まず(7)式の吟味が、利付電々債を安全資産の例として、行われる。具体的には相対的リスク回避度aの値に0.5,1,2を想定して(7)式により主観的割引率を求めると、それはアメリカにおいての類似の計算結果よりも1.5?6%ほど低くなる。問題なのは、aの値が1,2のとき割引率がマイナスになることである。
 次に(9)式の実証としては、消費増加率を株式あるいは土地という危険資産の超過収益率の上に回帰させることが試みられ、正の相関関係が明らかとなる。
 第3に、資産保有者をタイプ別に分類した上で、各関係式の妥当性が検討される。
 第4に、(11)式に基づいて観察されるリスク・プレミアムに対応するaの値を求めると、日本の場合もアメリカの場合も、株式、土地のいずれについても異常に大きい。すなわち「リスク・プレミアム・パズル」の存在が再確認される。最後に、消費行動に習慣性と耐久性を導入することによってパズルを減殺することの可能性が考察される。本論文の結論は、日本の消費者はおおむね「消費に基づく資産資本評価モデル」と整合的な行動をとっており、したがって危険資産の超過収益率の上昇(低下)は、消費の増加(減少)を伴うということである。
 
 第2論文は森泉氏による「日本の公的住宅金融における信用割当とローン需要」である。わが国の個人住宅購入において公的住宅金融の占める役割の大きいことは誰でも認めるところであろう。PHを住宅価格、Hを住宅購入量、WOを家計の初期保有資産額とすれば、家計の公的住宅ローンヘの需要額L*はL*=PHH?WOによって定義され、それはWO,PHのほかに恒常所得、借入利子率、家計の諸属性の関数とされる。しかしL*という需要はそのまま実現するのではなく、同じような諸変数に依存する信用制約L-とL*のうち、より小さいはうが実現することになる。森泉論文は、ローン需要関数L*(・)と信用制約関数L-(・)をswitching regressionの手法により同時に推定するとともに、ある家計が信用割当を受ける(L*>L-であること)確率を示す関数を、プロビット分析によって推定するという野心的な試みを実行する。
 データとしては、「東京圏マンション入居者動向調査」(1988?1990年)の個票データが用いられ、有効な標本数は1,143である。諸説明変数データの作成については、種々の工夫がなされている。諸関数のパラメーター推定結果とそれの解析から、次のような諸結論が導かれる。(1)信用割当を受ける家計の割合の全標本平均は約26%であるが、若年世帯ほどその割合が高い。(2)職業の差による影響としては、自営業等のほうが勤労者よりも信用割当を受ける確率が2倍近くも高い。(3)信用割当を受けた家計についてのローン需要削減額は約33%である。(4)信用割当が存在することによって、ローン需要の諸説明変数に対する弾性値はかなり低下させられる。(5)信用制約関数は各説明変数の変化に対して、住宅価格に対するものを除いてかなりに非弾力的である。(6)したがって信用割当の制約を緩和するための有効な手段は住宅価格を低下させることである。
 以上から知られるように、森泉論文は、わが国の個人住宅資本形成において公的住宅金融が果たす役割の大きさと限界を包括的に分析した業績として貴重な知見を与えるものと高く評価される。
 
 第3論文は田辺氏による「マンションのヘドニック価格と超過収益率の計測」である。住宅の価格形成の分析において厄介な問題は、それが資産としての側面を持っていることである。住宅資産の収益率を計測することは、住宅投資への資金配分が効率的か否かを検証するための重要なステップである。しかしながら、住宅の価格は本来、立地特性その他の住宅属性にも依存して決定されるので、純粋の住宅価格変動を計測するためには、これら諸属性による影響を制御しなければならない。ここで登場するのが、ヘドニック・アプローチである。田辺論文は、まずこのヘドニック・アプローチによって特定年次の特定住宅の価格を説明する回帰方程式(半対数型を想定)を推定し、その方程式の説明変数の中に含まれる年次ダミー変数の係数値をもって住宅価格の品質調整済み変化率と考えるという手法を採用している。その際用いられるデータは、1984?1992年度の「住宅金融公庫融資利用者調査報告」のマンション関連個票データの埼玉、千葉両県分である。
 その結果、1987年度以降の品質調整済み住宅価格指数は無調整のそれの70%前後であるが、両者は類似の動きをしていることが明らかとなる。価格変動によるキャピタル・ゲインに住宅の帰属家賃を加えて、住宅資産の1年収益率を計測し(ただし、住宅金融公庫のローンを部分的に利用することに伴う調整を加える)、それと代替的な資産の収益率の差として、マンション資産の超過収益率を計測してみると、それの正負両方向においての変動はかなり大きく、住宅投資の短期的リスクが大であることを示している。
 一方、住宅価格指数論そのものとしてみれば、品質調整済み指数は昭和60、61年度においては昭和59年度より低下していたことが明らかになる(図2)。また昭和59年度価格を基準とし、品質調整済み価格指数を用いて住宅の理論価格を計算し、それの年収倍率を求めるならば、昭和62年度以降でもそれが5倍前後の水準にとどまっているという興味深い結果が示されている(図4)。
 従来のこの種の分析(例えば、伊藤・廣野、1992)では、超過収益率(リスク・プレミアム)の時系列が得られたところで、住宅市場の情報効率性の検証に進むことが通例なのであるが、著者はこの面では慎重であり、標本数が9個しかないので、その方向への強い言及は差し控えている。しかしながら、超過収益率の計測というところまででも、田辺氏は貴重なデータヘのアクセスが可能であるという利点を生かしつつ、正確かつ透明な方法論で分析を進め、興味深い結果を得ている。住宅資産分析への重要な一貢献である。(N.S)
価格(税込) 750円 在庫

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