タイトル | 季刊 住宅土地経済 1995年春季号 | ||||
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発行年月 | 平成7年04月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 阪神大震災後の復興を考える | 梅野捷一郎 | ||
特別論文 | 土地税制とその周辺にあるもの | 宇田川璋仁 | ||
研究論文 | 移動費用を伴う住み替え、居住形態、立地の同時選択 | 瀬古美喜 | ||
研究論文 | 不動産市場における現在価値モデルについて | 中神康博 | ||
研究論文 | 土地税制の比較分析 | 山崎福寿 | ||
海外論文紹介 | 米国における土地・住宅価格の動向 | 中里透 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 本号の第1論文は、瀬古氏の「移動費用を伴う住み替え、居住形態、立地の同時選択」である。東京圏の『昭和63年住宅需要実態調査』(建設省住宅局監修)の個票データは、サンプルの各家計について、現在の住宅への入居時期と住宅の諸特性および家計特性、立地特性および住居費などの情報のほかに、昭和59年以降の転居の有無、過去の住宅についての同様な情報、および将来の住宅改善計画の有無、将来の住宅についての同様な情報、という過去、現在、将来においての家計による住宅関連諸決定に関する情報を含んでいる。その意味でこのデータは、一種のパネルデータであると言える。著者はこの個票データの内容に着目し、東京圏内家計の住宅関連決定に関して、7つの選択肢を設定する。たとえば、第3選択肢は「過去より現在にかけて東京都内の借家に住み替え、かつ近い将来の住み替え計画もある」というものである。 家計がどの選択肢を選ぶかについては、次のような効用最大化モデルが定式化される。家計の効用は、過去、現在、将来における特定立地(東京都内あるいは東京都外)においての住宅サービス消費量、住宅サービス以外の合成財消費量、現在の住宅においての居住期間の関数であり、家計特性がパラメータとして含まれる。また家計の異時点間予算制約式には、資産、所得のほかに、持ち家の実質フロー費用、借家の実質フロー費用、家計が過去から現在にかけて移動するときのフロー費用、同様に現在から将来にかけて移動するときのフロー費用が含まれる。予算制約の下での効用最大化の結果として、各選択肢についての間接効用が、次の諸変数の関数として規定される。(1)世帯属性としての世帯人員、(2)同じく世帯主の年齢、(3)同じく実質所得、(4)住宅属性としての総床面積、(5)持ち家のフロー費用、(6)借家のフロー費用、(7)移動費用の代理変数としての過去の住宅においての住宅費負担、(8)同じく過去の居住形態。各変数について、過去から現在への転居者については過去のデータを、非転居者については現在のデータを用いる。以上のような想定の下で、第0選択肢(過去・将来とも住み替えない)を基準としての各選択肢の選択確率を説明する多項ロジットモデルが推定される。ここで注意すべきことは、本論文の定式化では、各説明変数の係数値は比較選択肢specificであって、全選択肢について共通の値をとるものではないという点である。 推定結果の解釈は本論文第3節で与えられている。主要な知見として、移動費用の代理変数のうち、第8変数は明らかに移動抑制的に働き、第7変数は特に東京都外の持ち家への移動を抑制する効果をもつことが示されている。 本論文は、家計の住み替え行動を過去、現在、将来にわたる複雑な同時決定を表現する多数の選択肢によって定式化し、適切なパネルデータによって実証分析を行った試みとして高く評価したい。 第2論文は、中神氏による「不動産市場における現在価値モデルについて」である。土地市場の情報効率性について、本誌ではすでにいくつかの研究が発表されている。一般的には、各期の不動産の収益率と標準資産の収益率との乖離である超過収益率の時系列を観察し、それが系列相関を持つならば不効率が存在するとし、持たなければ市場は(情報)効率的であると判断するというアプローチがとられる。見方を変えれば、もし不動産価格が収益還元法で完全に説明されるならば定義によって情報効率性は保証されることになる。しかしながら、このような現在価値モデルは短期的には成立しなくとも、長期的には妥当しているかもしれない。 著者はCampbell and Shillerの手法を踏襲して、情報効率性の検討とは別に、土地市場および住宅市場について、レント・価格比率モデルと呼ばれる方程式により同比率、超過収益率および不動産価格の時系列理論値を導出し、それらを対応実現値と比較するという方法により、現在価値モデルの現実妥当性を検討している。 まず、土地市場についての分析が行われる。実質地代そのものについてのデータを得ることはむずかしいので、住宅サービスヘの需要関数と住宅サービス生産関数のモデルから、地代を住宅サービス価格で説明する方程式を導出し、これにより地代の時系列データを作成する(わが国47都道府県について)。これにより、地代・地価比率および土地の超過収益率の時系列データが作成され、後者により土地市場の弱効率性および他の説明変数を加えた回帰による準強効率性の検定がなされた。結果は両効率性の否定である。 他方、Campbell and Shiller手法によれば、地代・地価比率については観察値と理論値の相関はきわめて高いが、超過収益率のそれは低い。また地価自体のそれはきわめて高い。 次に住宅市場についても同様な分析が行われる。対象は東京都下吉祥寺および三鷹地区のマンション価格および家賃データである。ただし、いずれについても、住宅の諸特性による影響をコントロールするためのヘドニック関数分析がまず行われ、それによってマンションの価格および家賃の4半期指数が作成される。これら指数の時系列を用いて、まず分布ラグ的な超過収益率モデルが推定され、市場弱効率性仮説の否定されることが結論される。次に家賃・住宅価格比率を説明変数に加えて、準強効率性仮説も否定されることが示される。最後に、Campbell and Shiller手法の適用では、地代・地価比率の場合とほとんど同じ結論が導かれる。 本論文により、短期的な意味で土地・住宅市場の情報効率性が否定されたとしても、長期的には収益率還元モデルの成立することが明らかにされたことの意義は大きい。 第3論文は、山崎氏による「土地税制の比較分析:土地譲渡所得税と土地保有税」である。異なるタイプの土地税制が、宅地供給量(農地から宅地への転換)および地価へ及ぼす影響については、本誌でもすでにいくつかの研究が発表されている。山崎氏の本論文は、わかりやすい説明と関連文献の紹介によって、土地・住宅税制が土地・住宅市場に及ぼす効果を4つのポイントに分けて明快に分析している。 第1の論点は、土地・住宅について十分にフレキシブルな賃貸借市場が存在するならば、資産税制としての土地税制は効率的な土地利用に影響することはないという議論である。土地が誰によって保有されていても、それが最大の収益を生むように運用されるのであれば、土地保有と土地利用は無関係となり、資産税制が土地利用に影響を及ぼすことはない。その意味で、わが国の土地利用の効率性を阻害している最悪の制度は借地借家法であると言うべきである。 第2の論点は、延納の利益が発生することによる土地譲渡所得税の凍結効果である。著者はYamazaki and Ideeの未発表論文の中の実証分析およびシミュレーション分析を紹介しつつ、現在(短期)凍結効果および恒久的(長期)凍結効果が宅地供給量および地価に及ぼす影響の程度を評価している。ただし、賃貸借市場が完全に機能していて、農地から宅地への用途変更が土地譲渡とは無関係に実現できるのであれば、このような凍結効果は問題にならない。 第3の論点は、未実現キャピタル・ゲイン税ないしそれに等価代替する実現キャピタル・ゲイン税および土地保有税(固定資産税)は、土地利用に関して必ずしも中立的ではないことの議論である。土地による収益の将来予想成長率が用途によって異なる場合、税率変化の地価に及ぼす効果も異なってくる。しかし、賃貸借市場の機能が完全であって、土地の資産としての売買と土地利用が無関係であれば、このような歪みも発生しない。 第4の論点は、異なる税制の所得・資産分配の公平性の見地からの比較である。固定資産税の実質的な負担は、土地保有者の流動性ポジションによって影響されるという問題がある。また、それは税率変化の利益ないし負担すべてが変化時点においてたまたま土地を保有していた者にだけ帰着するという問題点を持つ。凍結効果のゆえに批判される譲渡所得税は、流動性および負担の公平性のいずれの問題についても、不公平性を免れており、その意味では推奨されるべきである。 結論として、土地利用の効率化という目的のためには、フレキシブルな賃貸借市場の整備という政策手段を、資産分配の公平性という目的のためには土地税制という政策手段を用いるべきことが主張される。これはティンバーゲン・マンデルの政策割当理論の一応用例である。 (N.S.) |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
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