タイトル | 季刊 住宅土地経済 1995年夏季号 | ||||
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発行年月 | 平成7年07月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 阪神大震災に想う | 山本三郎 | ||
特別論文 | 土地保有税重課論批判 | 米原淳七郎 | ||
研究論文 | 開発権市場の経済分析 | 坂下昇 | ||
研究論文 | 住宅政策の法システム | 福井秀夫 | ||
研究論文 | 住宅市場の計量分析 | 奥村綱雄 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 本号の3つの論文は、いずれも最近話題になっているテーマを理論的、あるいは実証的に分析した評価の高い論文であり、今後さらに研究を発展できる内容に富んだ論文である。第一番目の坂下論文は、都市開発に関するテーマで、まったく自由な開発にまかせる場合、都市の総容積率を規制するダウンゾーニング法、両者の中間であるTDR(開発権移転)手法の3つの効率性の比較をおこなう。第二番目の福井論文は、借地借家法が良質な借家住宅の供給を歪めている点を指摘し、土地保有税、相続税などの強化と公的住宅供給の見直しを論ずる。第三番目の奥村論文は、金融資産市場の一般均衡分析を住宅市場に応用し、消費者とデベロッパーの最適化行動から、住宅(上物)と住宅地(土地)の需給を理論的に導出し、その結果をわが国のデータに当てはめて分析する。 坂下昇論文(「開発権市場の経済分析」)の目的は、(1)自由な開発、(2)ダウンゾーニング(容積率規制)、(3)TDR(開発権移転)手法、の各々の市場で発生する総地代の大きさを計測し、効率性の犠牲(不効率の程度)を計測することである。ここで、ダウンゾーニングとは都市内の開発総量を制限するやり方であり、TDR手法とは都市全体の開発の総量の上限は設定するが、開発の権利は自由な市場で売買させる方法である。 理論モデルは、デベロッパー企業が土地と労働を投入して一次同次のコブ=ダグラス型関数のもとでオフィス空間を作り出すと仮定する。都市は、CBD(都心中央部)から円形に郊外に広がっていると仮定し、生産される物の価格はCBDからの距離にしたがって安くなっていくと仮定する。完全競争のもとで企業が行動すると仮定すると、土地と資本に対する需要関数が求められ、地代関数を導くことができる。求められた都市の各地点の地代関数を積分して総地代が導出される。 (2)のダウンゾーニング(容積率規制)は、都市内の資本-土地比率に外生的な上限を設けて開発される総量を規制する方法であるが、坂下モデルでは、このダウンゾーニングによって、都市内の資本はより少なくなり、総地代収入も減少することが理論モデルから証明される。 このような変化を定量的に求めるために、(2)ダウンゾーニングと(3)TDR(開発権移転)の場合に都市内の総開発量の上限の設定量は同一とし、数値シミュレーションによって、自由な開発の場合と比較すると、以下のような結論が導かれる。 総地代でみると、「ダウンゾーニング(容積率規制)」は、「自由な開発市場(を100%とする)」の93.5%まで減少するのに対して、「TDR(開発権移転)」は、開発権料収入を加えると「自由な開発市場(100%)」の96.1%程度にとどまっている。言いかえると、「ダウンゾーニング」のほうが「TDR(開発権移転)手法」よりも、不効率の程度は大きいことが数量的に求められる。 論文は非常に明快で読みやすく、内容もさることながら、論文構成・論旨の展開についても、若手の研究者の学ぶべきところは大きい。きちんとした理論モデルから導かれた数値例による結論はとても興味深い。ここでのシミュレーション分析を実際のデータに当てはめ、理論モデルの生産関数などの計測を行い、3者の総地代収入を比較することが今後に残された課題と思われる。 福井秀夫論文(「住宅政策の法システム」)は、わが国の住宅政策が持家主義に偏っていた点を指摘し、家賃の自由な決定(借地借家法の改正)と、都心部などの低層住宅を排除する立法の必要性を指摘する。 わが国の借家比率は、1941年の78.3%から1988年では47.1%へと低下しており、とくに借家の中でも3部屋以上の良質(サイズの大き)な借家の割合は低下している。借家の中で増えているのはワンルーム借家だけであり、諸外国と比べても日本の民間借家は狭い。 このように、良質な借家供給が抑制されている要因には、借地借家法による借家権保護がある。市場実勢に合わせた家賃の値上げがしにくかったため、借家供給が抑制され、持ち家市場が過大になるという歪みを生じてしまったと福井論文は指摘している。ちなみに、わが国の多くの制度は借家よりも持家を優遇している。例えば、 (1)持家の帰属家賃には課税されないという所得税制は、持家を有利にする。 (2)住宅金融公庫による融資は圧倒的に個人住宅向けが多く、借家建設融資は企庫融資残高の10%以下であり、個人の持家住宅を優遇している。 (3)借地借家法がある場合には、借家の家賃を自由に市場実勢に合わせて値上げできないため、借家ではキャピタルゲインを持ち主が享受しにくい結果、借家の供給は増えない。 福井論文で指摘されるように、借地借家法を改正して、市場実勢に合わせた家賃の変動ができるようにすることと同時に、借手が容易に移動できるように敷金、礼金などの固定費用を減らし、各地域の住宅の質や家賃情報が借手に容易に入手できるように制度を整備し、金融機関の資金供給でも持家・貸家の区別をなくすようにすれば、良質借家の供給は促進されるのではないかと思われる。 つぎに、税制に関する議論が福井論文で展開される。土地保有税や相続税は、零細な商店、零細な地主に対して軽減すべきであるという意見があるが、しかし、保有税、相続税を軽減することは、小規模住居を残すことになり、かえって土地の有効利用を妨げてしまう。むしろ、都心部の低層住宅を排除するような税制、建築規制、都市計画などの立法が必要である。都心部などの土地価格の上昇は、インフラ整備などの外部経済によるものが多いのであるから、譲渡所得税を高めるべきであると主張されている。また、建物の固定資産税に関しては、良好な建設投資を抑制する効果があるので、むしろ廃止すべきであるとされる。 公営住宅の直接供給に関しては、収入超過者・高額所得者が公営住宅に住み続けるという問題があり、建て替えが困難となっており、否定的見解がなされている。 借家供給の促進、マーケットメカニズムが働くような税制の整備によって、公営住宅の供給よりは、むしろ低所得層に対する家賃補助などに変える方法も考えられ、これらの点に関する経済理論分析の展開が今後は望まれる。 奥村綱雄論文(「住宅市場の計量分析」)は、金融資産市場の一般均衡分析を、住宅市場に適用することによって、住宅需要、住宅投資、住宅地の需要・供給を理論的に導出し、わが国のデータを用いて実証分析を行った意欲的な論文である。 まず、理論分析では、家計の効用最大化行動から、消費と住宅ストック(上物)の需要と、消費と住宅地ストック(土地)の需要条件をそれぞれ導出する。つぎに、住宅産業は利潤極大化行動のもとで、農地と(消費)財を購入して、住宅投資財と住宅用地を作り出すと仮定し、住宅(上物)供給と住宅地(土地)供給関数を導出する。ここでは農地を住宅地に変えたり、その上に住宅を建設するには調整コストがかかると仮定しているが、家計は消費と住宅需要の選択に調整時間や調整コストがかからないとしている。 以上の理論モデルから得られた結果を、1955年から1989年の日本のデータを用いて実証分析が進められる。 それによると、(i)住宅投資は実質住宅投資財価格とタイムトレンドによって1970年以降はよく説明される。(ii)住宅地供給は、理論的には実質住宅地価格と実質農地価格の差と、タイムトレンドで説明されるが、住宅地価格と農地価格の差は統計的には有意な数値を示していない。また、将来の住宅地の価格予想も考慮されていない点は、改良の余地があると思われる。 シミュレーション分析では、住宅投資の変動要因として、実質住宅投資財価格の変動ばかりでなく人口構成の変化も大きいことが示されているが、理論分析では人口構成の変化は説明されておらず、やや整合的でない。 理論・実証分析においていくつか改良を加える余地はあると思われるが、しかし、住宅投資と土地の需給均衡を考慮しており、この分野の従来の研究を一歩進めた内容であると評価される。(Y) |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | △ |
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