季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1996年冬季号
発行年月 平成8年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言土地税制雑感石原舜介
座談会震災復興と土地利用の再編を考える豊田利久・林敏彦・鳴海邦碩・坂下昇
研究論文住宅金融と経済厚生吉野直行
研究論文人口構成の変化と住宅市場大竹文雄・新谷元嗣
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 本号の論文は、住宅金融、住宅投資乗数を通じて政府の住宅政策のあり方を示した論文と、人口構成の変化の住宅市場への影響を扱った実証論文の二つである。いずれの論文も、わが国の住宅市場の今後の方向性を示す重要な分析である。
 
 吉野直行論文(「住宅金融と経済厚生」)は、住宅資金配分の動向を綿密に観察した後、投資乗数の観点から住宅と設備投資を比較し、財政投融資の資金配分のあり方に示唆を与える。さらに、社会的厚生関数を考慮した政府の住宅政策の方向性を検討し、いくつかの興味深い指摘・提言がなされる。政策的視点にアクセントのある論文ともいえる。
 まず住宅資金の配分動向である。民間金融と公的金融の動向をはじめとして、住宅資金の配分が観察されている。たとえば、(イ)住宅金融に占める公的金融と民間金融の比率では、公的機関の伸びに対して、民間機関の住宅融資残高の比率は低下している。また、(ロ)貸出に占める個人向け住宅ローンのシェアは、民間金融機関が11%前後であるのに対し、政府系金融機関に対する住宅金融公庫ローン残高比率は上昇傾向にあり(もともと高い)、95年3月末には44%強である。ひとことでいえば、住宅金融における公的機関と民間機関の代替((イ))と、とくに最近時における公的機関の拡大((ロ))である。吉野論文ではこれを投資乗数の分析と社会的厚生関数の視点から評価し、政策的方向性を示す形をとる。
 投資乗数では需要サイドの短期モデルと、供給サイドを入れた長期の投資乗数とに分けて分析する。まず短期の需要サイドのみに注目した投資乗数については、著者の別の分析結果から(ハ)住宅投資が増大した場合と、(ニ)政府支出が増大した場合とを比較する。(ハ)は家具などの消費需要を換起するが、(ニ)はそうした効果がないと指摘する。それゆえ、消費関数としては所得と住宅投資を含む形で展開する。その結果をGNPのバランス式に導入し、乗数を算出する。住宅投資乗数が3.63、政府支出乗数が3.33であり、住宅投資乗数のほうが大となる。通常の消費関数の説明要因は所得と資産関係が中心となるのに対し、所得と住宅投資を説明要因にしている点が興味深いし、著者の一つの工夫といえる。
 他方、供給サイドを含めたマクロモデルによる住宅金融ローンでは、住宅ローン増大による住宅投資の増大効果と、企業設備への貸出減少に伴なう設備投資減退効果を織り込んだ理論モデルを展開する。そのなかから、モデルによる住宅ローンの増大効果について述べておく。まず住宅ローン比率が上がると、生産設備に回る資金が減少し、長期的には資本ストックが少なくなり、GNPが下落し、物価は上昇する。金融政策の効果では、金融緩和がGNPを上昇させるが、貸出利子率も上げる。
 民間金融機関の最適融資比率では、次の結果を得る。すなわち、公的機関の住宅融資の増大は、民間金融の住宅融資比率を低下させる原因となる。財投からの企業設備への資金低下により、民間金融機関は企業融資で高い金利を得るからである。
 最後の理論的分析は、政府が社会的厚生関数(GNP、人々の効用の関数)をもつと仮定し、政府は社会的厚生関数を最大化するように住宅政策を行ったときの分析である。一つの帰結は、政府が民間金融機関の行動も考慮して、社会的厚生極大の住宅資金配分を決定するならば、より多くの住宅への資金配分が必要であるというものである。
 吉野論文では最近の財投からの住宅融資増大の効果分析と政策的方向性に焦点がある。長期的には、財投の資金配分が住宅に傾斜すると民間金融機関をクラウディングアウトする一方、政府が民間金融機関の行動を考慮した社会的厚生最大化を行えば、財投の資金配分をより大きくする、という点に論文の一つの主眼がある。これは現実の観察を理論的に提示した点に意義がある。
 その反面、吉野論文では、企業への設備投資資金の供給を低下させないことを主張する。そのためには、従来のような融資一点ばりでなく、債券の流動化などによる住宅資金の配分政策を提案する。住宅投資と設備投資の短・長期の効果の相違、それに伴なう住宅政策の重要な側面を示しているといえる。
 
 大竹文雄・新谷元嗣論文(「人口構成の変化と住宅市場」)は、人口要因と住宅市場に関してアメリカで反響の大きかったマンキュー=ワイルのモデル(以下、MWモデル)およびその計量経済学的手法上の問題を改良して、わが国の住宅市場に適用した計量モデルである。従来から、人口の年齢構成、世帯人員などの人口学的要因が、住宅市場に影響を与えることは指摘されてきたが、厳密な計量経済学的分析を適用した研究はほとんどなかった。その意味でも、この論文は今後のこの分野の研究に大きな影響を与えるものと思われる。
 まず、大竹・新谷論文ではMWモデルの概要と、その問題点が紹介される。ついで日本への直接的適用とアメリカとの比較、問題点を改良した分析などを行う。
 MWモデルは2段階にわけて住宅需要関数を推計する。第1投階は、世帯当たり住宅需要を、各世帯人員の年齢固有の住宅需要量の合計として近似し、i歳の世帯員の住宅需要量αを推計する。第2段階は、t年のI歳の総人口にこのαを乗じてi歳の住宅需要を算出し、これを年齢別に集計して、t年の全国の住宅需要Dt(MW需要指標と呼ぶ)を求める。MWモデルは、横断面の個票データとマクロデータを組み合わせた分析に一つの特徴があり、集計に際してはαが時間に関して安定的であると仮定する。
 日米間のαには大きく三つの差異が観測される。その一つは、アメリカでは20歳代、30歳代に住宅需要の急増があるが、日本では加齢とともにゆっくり増加する。一つの解釈として、日本は借家市場が未発達で、頭金の比率が高いため、退職金の受取時に住宅購入が多くなり、日本の住宅需要が高齢期に大となることをあげる。いわば、住宅市場の不完全性の指摘である。
 次にMWモデルを直接日本に適用した結果を述べる。日本では、MW需要指標は住宅ストックにはプラスの効果を与え、住宅価格には有意な影響を与えない。この結果はアメリカの結果とまったく逆であり、また住宅価格に関する結果はカナダの場合と同じである。この推定結果は、住宅供給の価格弾力性が大きいことを示す。しかし、推計ではデータの定常性を仮定しているが、高い系列相関が観測され、この仮定は検討を要する。MWが推計したときの一つの問題は、誤差項の系列相関やデータの非定常性の検討が不十分ということであったが、大竹・新谷論文ではこの検定、改良した再推計を行う。
 まず、定常性の検定である。検定方法はDFテストとADFテストを用いる。検定結果は、MW需要指標、住宅ストック、住宅価格のいずれのデータも、単位根の存在が棄却できない。したがって、前述の結論は見せかけの相関の可能性があり、このときには階差をとって定常化したデータで再推計が必要となる。
 さらに、非定常な変数が複数存在するとき、その変数同士の線形結合が定常な変数になれば、その変数は共和分関係にあるといわれるが、一般に共和分関係を示す線形結合は長期的な均衡関係と解釈される。共和分のテスト結果によれば、住宅需要と住宅ストックに共和分の関係があり、住宅需要と住宅価格には共和分関係がみられず、このことは長期の住宅供給の価格弾力性が大という前述の仮説と整合的である。
 他方、短期的な住宅価格の変動を説明するため、各変数の階差をとって誤差修正モデルが推計される。推計結果から、次のことが指摘される。人口増加によって住宅需要が増加し、短期的には住宅価格の上昇とストックの増加を誘発するが、長期的には住宅供給が価格に弾力的なため、住宅価格はもとの水準にもどってしまう。内挿シミュレーションによれば、単純なモデルであるが80年代後半の住宅価格の高騰をよく説明している。
 こうして、大竹・新谷論文は人口要因の住宅市場への影響を厳密に検討しており、データ作成も緻密な工夫がなされている。著者が指摘するように、住宅は地域的格差があり、今後はとくに地域的住宅市場への展開が望まれる。(T)
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