タイトル | 季刊 住宅土地経済 1998年秋季号 | ||||
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発行年月 | 平成10年10月 | 判型 | B5 | 頁数 | 36 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 居住改善の潜勢力 | 森正臣 | ||
特別論文 | 自生的秩序としての都市景観 | 小谷清 | ||
研究論文 | 持家・借家選択と住宅の規模 | 山崎福寿・浅田義久 | ||
研究論文 | 人口増加、技術進歩と資源制約の経済成長モデル | 瀬古美喜・Pang.兼武 | ||
海外論文紹介 | 家主の再投資行動に関する動学モデル | 中田真佐男 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 本号の二つの論文は、伝統的な理論を現実に即して拡張し、新しい視点を提供しようとする野心的な試みである。山崎・浅田論文は、持家と借家に関するテニュア・チョイスの既存の議論を出発点として、借家を借りる場合と持家を購入する場合に発生する固有の費用に着目する。瀬古・?●論文は、最近の内生的成長モデルの基本的枠組みに依拠しながら、そこに土地を念頭においた「有限資源」という新しい観念を導入する。 山崎福寿・浅田義久論文(「持家・借家選択と住宅の規模」)は、日本では持家に比べて借家の規模が著しく小さいことに注目する。そして、消費者の合理的選択と供給者間の競争を通じてこうした結果が生じるのは、持家・借家選択の際に取引費用に大きな差があるためであることを指摘する。 その主要な論点は、借家と持家の非対称性である。まず借家に関しては、一方で家主・借家人間の情報非対称性のためエージェンシーコストが生じ、そのため家賃が押し上げられる。他方、借家契約を結ぶための取引費用は大きくない。これに対し、持家の場合は持ち主と使用者が同一だからエージェンシーコストは発生しないが、持家の売買契約に関しては大きな固定的取引費用がかかる。この差が持家と借家の差を生むのである。さらに本論文の特徴は、こうした理論的分析にとどまらず、理論の整合性を実際のデータによって検証している点である。 本研究の結果は説得的であるが、いくつかの問題が残されていることも事実である。理論面から見るならば、借家のエージェンシーコストが単位面積当たり家賃の上昇をもたらすのに対して、持家契約の取引費用が面積に依存しない固定費用であると仮定されている。このコスト構造の差が理論的に重要な役割を果たしているが、なぜ借家のエージェンシーコストが単位面積に比例するのか、なぜ持家契約の取引費用が持家の大きさに比例しないのかはそれ程自明ではない。たとえば、持家を売買する際の契約手数料は持家の大きさに独立ではなく、その価額、したがって大きさにも依存する。逆に、借家のエージェンシーコストが、借家の大きさと独立な可能性もあり得る。本来、エージェンシーコストは外生的に決まっているのではなく、内生的に決まるものであるから、その性質も本論文で仮定されている性質と同じかはそれほど自明ではないのである。 従来の経済成長の理論では、資源の制約を明示的に考えることはあまりなかった。瀬古美喜・Pang.兼武論文(「人口増加、技術進歩と資源制約の経済成長モデル」)は、こうした主流の考え方が、発展途上国の経済成長を論じる際には限界があることを指摘し、「有限資源」を明示的に考慮した経済成長モデルを考える必要性を明らかにしている。ここでの有限資源とは、土地のように部分的には増加させることは可能であるが、有限であるような資済である。本研究では、生産に用いることのできる有限資源ストックは技術進歩によって増加し、人口成長によって減少すると仮定、そのもとでの経済成長のパターンを考察している。この論文の特徴は、人口成長が高いほど、生産に用いることのできる有限資源ストックが加速度的に減少する、という仮定である。 この有限資源の特徴から、従来の経済成長理論では十分に取り扱えなかった、生産に利用可能な有限資源へのマイナスの影響を通じて、人口成長の経済成長へのマイナスの影響の考察が可能となる。著者は、それに基づき、経済成長には「先進国型」の有限資源に制約をあまり受けない成長と、発展途上国のように、有限資源の制約を強く受ける「低開発国型」の経済成長があることを示している。 このように、本論文は有限資源に関する洞察から興味深い結論を導いているが、需要側の条件、技術進歩関数、有限資源変化関数は外生的に与えられている。しかし、これは本来経済主体の最適化行動の結果として決定されるものである。こうした一般化を含め、今後の研究の発展が望まれる。(N) |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
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