季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1999年冬季号
発行年月 平成11年01月 判型 B5 頁数 48
目次分類テーマ著者
巻頭言21世紀へ向けての政策課題豊蔵一
座談会生活革新とこれからの「住まい方を考える井原哲夫・服部岑生・高橋香保・西村清彦
研究論文東京圏地価データベースの延長と地価関数のパラメータ変動安藤朝夫
研究論文土地担保と信用保証井出多加子・田口輝幸
研究論文生活関連社会資本の生産力効果吉野直行・中東雅樹
海外論文紹介一極集中の政治経済学中里透
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ノート
 いわゆる「バブル経済」の崩壊後の住宅と土地をめぐる動きは激しい。ここ数年を見ても、不良債権問題を筆頭として地価形成のあり方、そして公共投資の歪みといった問題が新聞紙面をにぎわしている。『季刊住宅土地経済』は、こうした時の話題の裏に潜んでいる基礎的な問題をとり上げて学問的な分析を行い、新しい視点を提供することをその使命としている。本号におさめられた3論文は、まさに本誌の役目を十二分に果たす先駆的な仕事である。
 
 安藤朝夫論文(「東京圏地価データベースの延長と地価関数のパラメータ変動?時空間分析に向けて」)は、その副題からわかるように、著者の以前の研究で分析された、南関東4都県にわたる地価パネルデータをさらに5年間延長し、1996年までの21年間をカバーした、大規模な地価の時空間分析の基礎資料としようとする壮大な試みである。この5年間の延長の意味は大きい。というのは、この5年間を含めることで、「バブル」の生成と崩壊の双方を共通の時空間モデルで説明することが可能になるからである。著者はすでに、バブル発生時の地価伝播プロセスが、熱力学の拡散方程式モデルによってうまく説明できることを示しており、同じ拡散方程式モデルが「バブル」崩壊局面でも成立するかは、理論的にも、地価の予測という政策上の必要性の面からもきわめて重要な示唆を与えると考えられる。
 残念ながら、安藤論文は直接に拡散方程式のバブル崩壊期への適用可能性を直接に検証するには至っていないが、地価パネルデータの「バブル」崩壊期への延長という作業を通じて、その適用可能性を強く示唆する結果を得ている。同論文の図4にあるように、拡散モデルによれば、「バブル」の生成期には資金流入が都心地域に起こるために地価勾配がきつくなるのに対し、「バブル」の崩壊期には資金流出が都心地域で起こるので、地価勾配が緩やかになるという性質がある。こうした「バブル」生成と崩壊の非対称性は興味深い性質である。著者は、地価勾配曲線の時系列変化を検討して、こうした非対称性が現実に日本の土地市場で見られたことを報告している。
 ただ著者も述べているように、本論文は、あくまでも地価拡散方程式モデルの適合性検定の第一歩として、データの整備とその問題点の整理という性格をもっている。したがって、こうした整備されたデータに基づく著者の本格的な地価の時空間分析が切に待たれるところである。
 
 井出多加子・田口輝幸論文(「土地担保と信用保証」)は、土地担保と公的信用保証が1983年から1994年のいわゆる「バブル」の発生と崩壊を通じてどのように銀行貸出に影響したか、そして、それが地価にどのような影響を与えたのかを、地銀64行、都銀11行の1983年から1994年にわたる12年間のミクロ・パネルデータを用いながら、金利決定式、貸出需要関数、地価決定式を同時推計している。
 結果を見ると、地価上昇が、貸出制約に直面していたと考えられる企業の担保力を高めて、貸出需要を大幅に上昇させると同時に、貸し倒れのリスクを低めて、貸出金利を低下させる効果をもったことが確かめられている。そしてこの金利低下効果は、地価をさらに上昇させ、もう一段の貸出需要の増加と金利の低下をもたらしている。このように、いわゆる「バブル」の時期には、地価上昇と担保カの増加が、著者の言葉を借りるなら「車の両輪」の相乗効果で景気を拡大していったことになる。これに対してバブルの崩壊は、同じ効果がまったく逆に働くことになり、負のスパイラルによって景気の落ち込みが大きくなったと分析している。
 こうした「シナリオ」は、すでに多くの研究者によって指摘されており、目新しいものではないが、井出・田口論文の新しさはそれをミクロ・パネルデータを用いて示した点にある。とくに地銀64行のデータをパネル化し、県別の地価パネルデータと結合して統合された連立方程式体系として推計を行っているところに、井出・田口論文の貢献がある。と同時にその先駆性のゆえに、論文の構成に荒削りな点があることも否めない。たとえば著者は、自己資本比率規制が常に貸出の制約になっていると仮定して金利決定式を導出しているが、著者自身が注で述べているように、実はごく最近を除いて、多くの銀行は自己資本比率規制をクリアしており、直接の制約にはなっていなかったと考えられる。さらには地銀64行に加えて都銀11行のミクロ・パネルデータを構成して、独立に決定式を推計、いくつかの興味深い結果を得ているが、地銀と都銀はコール市場を通して連関しており、本来、地鍛貸出金利と都銀貸出金利は同時決定となっているはずである。こうした問題点はあるものの、銀行のミクロ・パネルデータを用いた本論文の先駆性は高く評価されるべきであろう。
 
 吉野直行・中東雅樹論文(「生活関連社会資本の生産力効果」)は、現在その効果について議論が高まっている、社会資本の生産力効果を正面から計測しようとする意欲的研究である。過去の社会資本の生産力効果に関する研究が、地域マクロ量を用いた分析であるのに対し、吉野・中東論文は、地域の差以外に産業の差も考慮し、それに従って、それぞれの産業に対応する社会資本の差も考慮した地域・産業パネルデータを構成し、それに基づく分析を行っている点で重要な貢献をしている。
 著者が社会資本のなかでも、とくに生活関連社会資本に注目し、それが第三次産業に及ばす生産力効果に力点を置いて計測を行っているのが本論文の特徴である。ここで生活関連資本とは、市町村道、街路、都市計画、住宅、環境衛生、厚生福祉、文教施設、上水道、下水道が主たる構成要素である。著者はこうした生活関連社会資本は、産業基盤関連社会資本、その他の社会資本と合わさって、第三次産業の生産を増加させる働きがあると考える。同様に、農林水産分野と国土保全分野は第一次産業の生産に、産業基盤分野は第二次産業の生産に影響を与えると考える。そして地域・産業パネルデータを用いて、それぞれの社会資本の生産力を計測している。
 吉野・中東論文の特徴は、この直接の生産力効果に加えて、社会資本増加が民間投資を誘発して生産を増やす間接効果も同時に推計している点である。そして得られた結果によれば、第三次産業に影響を与える社会資本の生産力効果は他の第一次産業、第二次産業に影響を与える社会資本に比べて大きい。このことは第三次産業関連の公共投資、そのなかには生活関連の投資の占める比重が大きいのであるが、そうした公共投資を増やすことは、他の分野の公共投資に比べて効果が大きいことを示している点で興味深い。
 このように方法論としても斬新で、興味深い結論を得ている吉野・中東論文であるが、問題点がないわけではない。これは吉野・中東論文にとどまらず、公共投資の内訳を分析に用いる場合必ず生じる問題であるが、どのような投資がどのカテゴリーに属し、それはどの産業に影響を与えているかを決めるのが、どうしても恣意的にならざるを得ないという弱点である。たとえば、第三次産業に影響を及ぼす社会資本として、産業基盤分野と生活関連分野、その他の3種類の社会資本があげられている。しかし、第三次産業内部の多様性を考えると、こうした分け方に基づくモデルが真の投入産出の関係を表しているのではなく、需要条件等の代理変数となって、単なるみせかけの相関を表しているにすぎないという可能性も否定できない。
 これは社会資本のように、多様でなかなかとらえどころのない、しかしきわめて重要な経済変数について分析する際の大きなジレンマである。それを克服するためにより詳しい産業分類、そして社会資本分類に基づくパネル分析をさらに推し進める必要があるが、吉野・中東論文はこうした今後の研究の貴重な指針を示しているといえよう。(N)
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