タイトル | 季刊 住宅土地経済 1999年秋季号 | ||||
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発行年月 | 平成11年10月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 実効ある都市のマスタープランを | 高橋進 | ||
研究論文 | 鉄道混雑から発生する社会的費用の計測と最適運賃 | 山崎福寿・浅田義久 | ||
研究論文 | 宅地造成費用と宅地供給 | 井出多加子 | ||
研究論文 | 集積の経済、混雑の不経済と地域労働市場 | 佐藤泰裕 | ||
論点 | アメリカ不動産市場の10年の動き | 篠原二三夫 | ||
海外論文紹介 | ボストンにおける経済変動の時系列分析 | 隅田和人 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 依然として、東京圏での通勤ラッシュ時における鉄道混雑には厳しいものがある。このような混雑現象に対する経済学者の処方箋は、?混雑料金を課すことと、?混雑料金収入をキャパシティの拡張にあてることの二つである。 ところが、現状はこの処方箋とはまったく逆になっている。つまり、東京圏の鉄道運賃は、混雑がそれほどでない他都市よりもかなり低い。これは、日本の鉄道運賃規制が簿価ベースの原価主義に基づいているからである。東京圏の鉄道は物価が安かった時代に建設されたので、簿価による原価は、最近建設された他都市より低い。これを反映して、東京圏の鉄道運賃が低くなっている。 山崎福寿・浅田義久論文(「鉄道の混雑から発生する社会的費用の計潮と最適運賃」)では、経済学者の処方箋どおり混雑料金を徴収すれば、乗客はどれだけの料金を負担しなければならないかを推定している。彼らの推定によると、混雑料金はきわめて高く、JR中央線では通常運賃の3?5倍程度となっている。小田急線と西武新宿線ではこれより低いが、それでも3倍以上になっている区間が存在する。 各路線のなかでは、都心近くでは倍率が小さく、中間部分で大きくなり、外線部に行くとまた小さくなるという傾向が見られる。山崎・浅田論文でも触れられているように、八田達夫氏のグループと家田仁氏のグループもそれぞれ異なった手法を用いて鉄道の混雑費用を計測している。これらの研究での計測結果との比較が必要である。 たとえば、家田氏のグループの計測結果によると、10分間乗車した場合の乗客1人当たりの混雑不効用は約85円である(三谷邦章・家田仁・畠中芽人1987「乗車位置選択行動モデルを用いた混雑費用の定量的評価法」『土木計画学研究・論文集』No.5、139?146頁)。山崎・浅田論文の混雑料金は10分間当たり数百円であるので、家田氏たちによる計測結果に比べてかなり高い。 この理由のひとつは、家田氏たちの研究は混雑費用(混雑不効用の貨幣換算価値)を計測しており、混雑料金を計算しているわけではないことである。混雑費用が混雑率の1次式で表される場合にはこれらの二つは等しいが、たとえば、混雑費用が混雑率の2次関数になっていると、混耗料金は混雑費用の2倍になる。山崎・浅田論文の推定結果によると、混雑費用は混雑率の3次関数から4次関数の間になっている。したがって、混雑料金が混雑費用の3倍から4倍になっていてもおかしくない。 以上からわかるのは、混雑費用関数の関数形が混雑料金の水準に対して大きな影響をもたらすことである。山崎・浅幻論文では、表2のλが混雑関数の次数を表している。この係数の標準誤差が出ていないので、推定された次数の統計的有意性はわからない。 道路交通における混雑関数については、関数形の推定が非常に難しいことが知られている。この理由から、道路交通においては最適混雑料金の計算はほとんど不可能であるとされている。鉄道についても、混雑費用関数の関数形を正確に推定することは容易でないことが予想される。今後の研究が必要である。 井出多加子論文(「宅地造成費用と宅地供給」)は、日本の宅地造成費についての(財)日本住宅総合センター調査を基礎にして、宅地供給モデルの推定を行い、資材輸入の促進が宅地供給に与える効果を計測している。 日本の住宅価格はアメリカに比べてきわめて高い。地価が高いことの影響を除いたとしても、2倍程度にまで達している。そのひとつの理由は、建物部分の価格が高いことであるが、もうひとつの理由は宅地の造成費用が高いことである。 アメリカの地価は都市郊外においては1m2当たり5000円に満たない水準である。当然のことながらこの数字は宅地造成コストを含んでいる。井出論文の基礎となった(財)日本住宅総合センターの調査によると、日本の宅地造成費用は1m2当たり1万5000円を超える数字になっており、アメリカよりはるかに高いことがわかる。したがって、日本の住宅コストを引き下げるためには、建物部分のコストだけでなく、宅地造成コストを下げることが重要な課題となる。 上記の調査によると、日本の宅地造成費はとくに資材面において縮減できる余地が大きい。公共工事の比率が高いほど資材費が割高になっており、その理由には資材メーカーの組合の影響力が関係しているといわれている。このことの当否は別にせよ、日本の宅地造成コストについてもっと注意が向けられるべきであろう。 さて、井出論文の主たる部分は宅地供給モデルの推定である。このモデルは、農家による農地留保需要関数、宅地需要者である消費者によって決定される宅地需要関数、デベロッパーの独占カを想定して導出した農地価格決定関数によって構成され、これらの3本の方程式を過去のデータを用いて推定している。鍵となる変数である宅地造成費用は、農地価格決定関数のなかに入っている。 一般に、宅地供給モデルの推定は難しく、井出論文においても理論的に予想される符号条件が満たされていないケースが存在する。しかし、過去の推定例に比較して、見劣りするものでないことは確かである。 推定された宅地供給モデルのシミュレーションによると、資材価格の低下は、農地価格を上昇させ、宅地価格を下落させる。宅地価格の下落は、大都市圏で相対的に小さく地方圏で大きい。また、宅地面積の増加(産地面積の減少)は大都市圏で小さいが、地方圏ではかなり大きい。これらの結果は、大都市圏では農地留保需要関数、宅地霜要関数双方の価格弾力性がきわめて小さいことによっている。これらの結論は興味深く、政策的な合意も大きい。しかし、データの制約から、宅地供給モデルの推定は困難であり、この結論がどの程度信頼できるかは定かでない。より詳細なデータに基づく研究が行われることを期待したい。 日本でも最近は失業率が増加してきており、ついにアメリカの失業率を上回るにいたった。失業率に関する重要な研究課題は、地域間(あるいは都市間)の失業率の相違に関するものである。佐藤泰裕論文(「集積の経済、混雑の不経済と地域労働市場」)は、住宅・土地市場の存在を考慮に入れて、地域間の失業率と賃金の関係を分析している。 伝統的には、失業率が高い地域では、それを相殺するように賃金が高くなければならないというハリス=トダロ・モデルが主流であった。ところが、アメリカやイギリスでは、失業率が高い地域で賃金が低くなる傾向があるという逆の実証結果が得られている。佐藤論文での推定によれば、日本でも失業率が高い地域で賃金が低いという傾向がある。 佐藤論文では、都市集積の経済と不経済が存在する場合には、失業率と賃金は正の相関をもつこともあれば、負の相関をもつこともあることを示している。そのメカニズムの詳細は論文を参照していただきたいが、概略は以下のようなものである。 第1に、都市人口が増加するとさまざまなタイプの労働者が集まるので、企業は自分たちにとって最適なタイプの労働者を捜しやすくなる。このことが企業の生産性を高め、それがさらに企業の参入を促す。多数の企業が参入すれば、労働者にとっても自分にあった職を探すことが容易になり、そのことが失業率を減少させる。 第2に、都市人口の増加は土地価格の上昇をもたらし、企業の生産コストを増加させる。そうすると参入してくる企業数が減少し、上と逆の現象が発生する。 第3に、大都市では住宅・土地価格が高いので、それを相殺するためには、同じ失業率であれば、賃金が高くなければならない。 これら三つをまとめると、第1の要因が相対的に大きい場合には賃金が高い大都市で失業率が低くなり、第2の要因が相対的に大きい場合には賃金が高い大都市で失業率が高くなるという結論が得られる。 佐藤論文は精緻な数学的分析を行っており、おもしろい結論を導き出している。しかし、用いたモデルは高度に抽象的なものであり、実際の世界とのつながりをつけるのが容易でない。よりシンプルでわかりやすいモデルや、実証的な分析につながるモデルをつくるといった方向での発展を望みたい。(K) |
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