タイトル | 季刊 住宅土地経済 2000年秋季号 | ||||
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発行年月 | 平成12年10月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 万国津梁館を見て | 星野進保 | ||
特別論文 | 再考:住宅市街地の再開発 | 高見沢邦郎 | ||
研究論文 | 不動産価格形成とオプション・ゲーム | 村瀬英彰 | ||
研究論文 | 財政投融資制度改革と今後の公的住宅金融 | 吉野直行・中田真佐男 | ||
研究論文 | 戸建住宅地におけるミクロな住環境要素の外部効果 | 高暁路・浅見泰司 | ||
海外論文紹介 | 住宅供給に関する実証分析 | 中東雅樹 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 不動産価格は将来の収益によって決定される。ところが、将来収益は常に不確実であり、そのことが不動産価格の決定をむずかしくしている。不確実性が存在するときに不動産価格がどう決まるかという問題は、企業収益が不確実なときに株式価格がどう決まるかという問題とほぼ同じである。したがって、株式市場の価格形成を主たる対象として発展してきたファイナンス理論を適用することができる。村瀬英彰論文(「不動産価格形成とオプション・ゲーム」)は、このような分析の有効性を示している。 ファイナンス理論で頻繁に使われるのがオプションという概念である。オプションとは、一定の価格で株式等の資産を購入あるいは売却することができる権利である。たとえば、ある株式のコール・オプションは、株式の時価がいくらになっているかによらず事前に設定した一定の価格でその株を買うことができる権利である。こういった権利(オプション)の価格(プレミアム)は簡単な式で表すことができ、さまざまなオプションが実際にも取引されている。 村瀬論文では、まず、現状では空室になっている不動産の価値がどう決まるかを考える。不動産を活用するためには、一定の転換費用(不動産仲介業者に支払う手数料、内装等の整備費用等が想定される)を払って、入居者を入れる必要があるとする。都市経済学の文献(参考文献にあげられているCappoza and Helsley 1990など)では、遊休地の所有者が開発費用をかけて不動産開発を行うケースを分析していることが多いが、基本的な構造は村瀬論文と同じである。 所有者は入居者を入れる時点を選ぶことができ、そのための転換費用は一定である。これは一種のコール・オプションであると考えることができる。つまり、入居者が支払う賃料を証券化する(つまり、その証券を買えば賃料分の配当を得ることができるような証券を発行する)と、上の転換費用がこの証券のコール・オプションの価格であると解釈できる。転換費用を払えば、この証券と同じ収益を手に入れることができるからである。 確率微分方程式に関する伊藤の補題を用いると、こういったオプションの価格を計算することができる。 オプション理論を用いて求めた空室の価格は以下のような性質を満たす。 ?不動産価格は現在価値モデルから求められる通常のファンダメンタルズよりも大きくなる。この結論については、若干の解説が必要である。ここで、筆者が通常のファンダメンタルズと呼んでいるのは、厳密には、現時点で賃貸したときの将来収益の期待現在価値である。現時点で賃貸を始めることは可能であるのに、空室のままにしてあるのは、そのほうが有利だからであり、空室の価値が現時点で賃貸を始める場合の価値より高いのは当然である。 ?不動産価格はファンダメンタルズの変化に対して過剰反応性を示し、ファンダメンタルズが変化したときには、不動産価格がそれ以上に急騰あるいは急落する。興味深い結論であるが、直観的な解説が提供されていないのが残念である。 ?ファンダメンタルズ(賃貸料)の不確実性が高まると、不動産価格が上昇する。これはオプションの性質からほぼ自明であろう。賃貸収入が小さい場合には、賃貸しなければよいので、期待値(平均)が同じで分散が大きくなると、コール・オプションの価値は高まることになる。 次に、筆者は借家人保護の効果を分析し、以下のような興味深い結論を得ている。 ?借家人保護は不動産価値を低下させるが、その低下を定量的に評価することができる、 ?不動産価格がファンダメンタルズの変化にどう反応するかは、ファンダメンタルズの水準によって異なり、ファンダメンタルズの水準が高い場合には過小反応を示すが、低くなるにしたがって過剰反応を示すようになる。 ?ファンダメンタルズの変動性が高まると、賃借人がいる不動産の価格は低下する。 以上の紹介からわかるように、村瀬論文はファイナンス理論を不動産市場に適用することの有効性を十分に示しており、今後、さらにこの分野の研究が進むことが期待される。 吉野直行・中田真佐男論文(「財政投融資制度改革と今後の公的住宅金融」)は、住宅金融公庫融資が住宅投資や民間住宅金融に及ぼすマクロ的な影響を実証している。 第1の結論は、住宅金融公庫融資が住宅投資を増加させる効果は1992年以降に顕著に低下しているというものである。バブル崩壊後、景気対策を大きな目的として公的住宅融資の規模が拡大してきたが、その景気浮揚効果は大きくなかったということになる。 第2に、公的住宅金融が民間銀行の住宅ローンをクラウド・アウトさせているのかどうかを検討し、1990年代後半は公的住宅金融による民間住宅ローンの圧迫が発生しているという結論を得ている。 これらの結論について注意すべきなのは、公的住宅金融が少し増加するとどのような効果があるかという限界的な効果を扱っていることである。したがって、たとえば、住宅金融公庫融資を全廃するときと現状のままで継続するときとの間の比較を行っているわけではない。公的金融を廃止すれば、民間住宅ローンが大幅に増加することは明らかであり、この意味では公的金融が民間金融をクラウド・アウトしていることは自明である。 もうひとつ注意すべきなのは、マクロ的な時系列データを用いた実証分析であるので、サンプル数が少なく、推定結果の信頼性を確保するのが容易でないことである。日本では個表データの入手が困難であるためミクロ的な分析がむずかしいが、可能ならば、ミクロ・データを用いた実証分析によって推定結果の信頼性を検証することが望まれる。 高暁路・浅見泰司論文(「戸建住宅地におけるミクロな住環境要素の外部効果」)は、ヘドニック・アプローチを用いて、日照時間、近隣の建物の質、隣接する公共緑地などの近隣環境が住宅価格にどう影響しているかを計測し、その結果を用いて、敷地細分化や公園の規模・形状がどの程度の社会的費用や便益をもたらすかを分析している。 そして、ミクロな近隣環境が住宅価格に及ぼす影響について、以下のような興味深い推定結果を得ている。 ?4時間以上の日照時間があるかどうかが有意な効果をもっている。 ?公共緑地に面していることは、敷地面積が小さい(110m2未満の)ときには正であるが、大きいときには負になる。 ?近隣の土地利用が混合していることは、敷地面積が大きい場合には正の価値をもつ。 これらの推定結果を使って、以下のような示唆に富む分析を行っている。 ?周囲が住宅に囲まれている敷地を分割し住宅戸数を増加させることは、その敷地の所有者には便益をもたらすが、隣接する敷地の所有者の日照時間を減少させるマイナスの効果のほうが大きい。ところが、公園に隣接する敷地の場合は、分割による資産価値の上昇が大きく、他の敷地へのマイナスの効果を上回る。 ?各住戸の敷地面積が50m2の街区に50m2の公園を設置することは1626万円の便益をもたらすが、住戸の敷地面積が150m2である場合には便益はマイナスとなり、その値もきわめて大きい(マイナス1億2000万円)。 ?公園の形状を細長い線状にしたほうが長方形状にするよりも便益が大きい。 もちろん、これらの結論が実際に当てはまるかどうかについては、数多くの実証研究を積み重ねる必要がある。しかし、都市計画の重要問題について、きちんとした科学的な研究が可能であることを実証したことの価値はきわめて大きいものと思われる。(K) |
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