季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2001年冬季号
発行年月 平成13年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言住宅政策の基本的方向宮繁護
座談会住宅土地の「統計ビッグバン」西村清彦・相川宗徳・浅見泰司・石澤卓志・森泉陽子
研究論文都道府県別住宅ストックの推計吉田あつし・哈純
研究論文抵当権の侵害と短期賃借権瀬下博之・山崎福寿
海外論文紹介ゾーニング導入前における土地利用の状況宇都正哲
内容確認
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 住宅ストックの計測の仕方にはその利用目的に応じてさまざまなものが考えられる。よく使われるのは住宅戸数である。しかし、戸数は住宅の広さなどを表すことができないので、床面積を用いることもある。これらは住宅ストックを「もの(物量)」の次元でとらえている。
 これに対して、住宅ストックを「価値」あるいは「価格」の次元でとらえることも可能である。国民経済計算で推計されている資本ストック額がその例である。国民経済計算では国全体の住宅ストックを金額ベースで推計している。ところが、都道府県レベルの住宅ストック額は推計されていない。
 吉田あつし・哈純論文(「都道府県別住宅ストックの推計」)は、都道府県別の住宅ストック額を、住宅統計調査における「もの」ベースのストック・データと県民経済計算の住宅投資額のフロー・データを組み合わせて推計している。このような作業には細心の注意と多大な労力が必要であり、著者の努力に敬意を表したい。
 5年ごとに発表される住宅統計調査には都道府県別、建築時期別、構造別の延べ床面積がある。この物量ベースのデータを、建築された時点の建築単価を用いて価格ベースに変換する。時間の経過にともなう減価については、適当な減価償却率を設定する必要がある。
 減価償却率の設定については、2つの方法を試みている。第1は瀬古美喜氏によって用いられた木造2.55%、非木造1.395%という償却率を用いる推計である。著者も指摘しているように、この推計では償却率が過小である可能性が大きい。また、この方法による推計は、県民経済計算の住宅投資額の計測における償却率の設定と整合的でない。
 第2の方法は、県民経済計算の住宅投資額のデータと住宅ストック額の変化とが整合的になるような償却率を用いるものである。この場合に問題になるのは、住宅投資額は木造と非木造に分解されておらず、総額しか使えないことである。この論文では、非木造の償却率を2%に固定して、木造住宅の償却率をデータから推定している。この方法の問題は、木造住宅の償却率が県によって大きく異なり、しかも年率20%を超えるという異常に大きな県がいくつも存在することである。
 木造住宅の償却率が異常に高くなる理由については、非木造の償却率が低すぎるということが考えられる。しかし、著者によると、非木造住宅の償却率を大きくしていくと木造住宅の償却率も大きくなるという傾向がある。
 著者は、その理由として以下の3点をあげている。
 ?県民経済計算における住宅投資額は着工統計を基礎に推計されているので、住宅統計調査の結果とは必ずしも整合的でない。
 ?県民経済計算では、着工ベースの工事予定金額を進捗状況を勘案して出来高ベースに変換しているが、変換方法が各県によって異なっている。
 ?建築確認が必要とされない10m2未満の工事を住宅投資額に反映させるために修正倍率を用いた推計を行っている。
 住宅投資額と住宅ストック額との整合性を確保することは、住宅市場の経済分析にとってきわめて重要である。したがって、これらを結ぶパラメータである償却率が非現実的な値になっていることは望ましくない。この点について今後の研究が期待される。その際に検討しなければならない論点としては以下のものがある。
 ?住宅統計調査は大規模な調査であるが、全数調査ではないので、その信頼性の評価が必要である。また、築後経過年数は記入者の記憶に基づいたものであり、その正確性は必ずしも担保されていない。
 ?県民経済計算における住宅投資額の推計に問題がないかどうかの精査が必要である。
 ?住宅の償却率を求めるために、より精密な分析が必要である。この点については、固定資産台帳を用いた小松幸夫氏等による研究(「わが国における各種住宅の寿命分布に関する調査報告」『日本建築学会計画系論文報告集』第439号、1992年9月)や住宅統計調査を用いた研究(『住宅需要の長期推計』住宅金融公庫1994年)が参考になろう。後者によると、木造と非木造の間での残存率の差は、築後40年程度はほとんどなく、それ以降に顕著になる。また、築後40年の残存率は50%程度である。
 ?住宅の償却は物理的に十分利用可能で価値があっても、建て替えたほうが利用価値が大きいといった経済的理由によって起きることも多い。こういったことを考慮した償却率の設定はどうあるべきかの検討も必要である。
 最後に、金額ベースの住宅ストック・データがそのまま住宅事情の良し悪しを表さないことに注意が必要である。住宅ストック額には土地部分が入っていないので、居住者が享受している住宅サービスの一部しか表現していないからである。たとえば、中高層住宅の建築が多い大都市の都心近くでの住宅ストックが大きくなる傾向をもつが、戸建て住宅が多い地方都市に比べて住宅事情がよいわけではない。
 
 民法395条における短期賃借権の保護制度が悪用され、抵当権の行使が困難になっている例が多い。たとえば、抵当権を設定して資金を借りた債務者が、抵当権が設定されている建物に賃借権を設定登記し、しかも、高額の敷金が支払われたことにして敷金の額も登記するといったことが行われる。短期賃借権が保護されているので、新しくこの建物を購入する人は、借家人の立ち退き請求を裁判所に訴える必要があるし、高額の敷金の負担も必要になる。したがって、建物の価値は大きく低下し、抵当権者はきわめて不利な立場に立たされることになる。
 瀬下博之・山崎福寿論文(「抵当権の侵害と短期賃借権」)は、短期賃借権保護制度およびその乱用を助長させている「価値権」と呼ばれている民法学説の問題点を分析している。
 通常は、先に結ばれた契約は後に結ばれた契約に優先する。ただし、契約が当事者以外の第三者に対して優先権を得るためには、登記が必要である。民法395条における短期賃借権保護の規定は、この優先順位をくつがえすものである。建物の賃貸借については3年間は抵当権者に対抗できる。つまり、抵当権の登記後に賃貸借の登記がなされたケースであっても、3年間は賃貸借を継続することができる。
 賃貸借が抵当権者に損害を与える場合には、抵当権者が裁判所に請求し、裁判所が契約解除を命じることができるとされている。しかし、そのためには弁護士費用などを支払って裁判所に請求する必要があるし、請求しても認められるとは限らない。
 瀬下・山崎論文は、短期賃借権の保護が悪影響をもたらす例を2つ分析している。第1は、リスクの高い借り手と低い借り手が存在していて、貸し手のほうは誰がリスクの高い借り手であるかについて不完全な情報しか持っていないケースである。この場合には「逆選択」の問題が発生する。
 短期賃借権の保護は倒産した場合に利益をもたらすので、リスクの高い借り手にとって相対的に有利である。したがって、資金市場にリスクの高い借り手が集まり、低い借り手が少なくなる。また、短期賃借権保護によって貸し手側の平均貸出コストが上昇するので、貸出金利が高くなり、資金の総供給が減少するという弊害も発生する。
 第2の例は、借り手のモラル・ハザードである。短期賃借権は、資金返済の優先権を侵害する権利であり、これを利用して、抵当権を設定した当初の貸し手を優先債権者から劣後債権者に変えることができる。
 たとえば、劣後債権者の関係者に短期賃借権を与えて、劣後債権者に実質的な優先権を与えることが考えられる。最初の貸し手はこのような可能性を予想するので、そのリスクを考慮して高い金利を設定するか、あるいは、貸出そのものを行わないといった対応をとることになる。
 さらに、瀬下・山崎論文は抵当権は目的物の交換価値のみを把握するものであり、その利用などに介入できないという「価値権」の考え方を明快に批判している。利用の仕方が抵当不動産の価値に影響するのが普通であるので、債務不履行の場合には抵当権者が売却処分を含めた利用権をもつべきことはごく当然のことであろう。(K)
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