タイトル | 季刊 住宅土地経済 2001年夏季号 | ||||
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発行年月 | 平成13年07月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 中心市街地に住宅を | 坂下昇 | ||
特別論文 | 居住福祉の近景と遠景、遠望される暗雲 | 島田良一 | ||
研究論文 | 定期借家権制度と家賃 | 大竹文雄・山鹿久木 | ||
研究論文 | 都心における容積率緩和の労働生産性上昇効果 | 八田達夫・唐渡広志 | ||
研究論文 | ドイツの公的金融システムと住宅政策 | 吉野直行・F.ロバシク | ||
海外論文紹介 | 地域特性の企業活動への影響 | 鈴木純一 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 2000年の3月から定期借家権制度が始まった。大竹文雄・山鹿久木論文(「定期借家権制度と家賃」)は、定期借家開始以来6カ月間のデータを用いて定期借家と旧来の一般借家の差を分析している。きわめてタイムリーな研究成果である。しかし、だからといって、やっつけ仕事ではなく、注意深く周到な実証分析を行なっている。 定期借家権制度発足前の経済学者の議論は、日本の借地借家法はファミリー向け賃貸住宅の供給を阻害しているというものだった。この予想どおり、定期借家の供給は広めの借家に多く、50m2未満の狭いものについては定期借家の供給は少ない。 定期借家反対派の人々は、定期借家が導入されると旧来の借家(一般借家と呼ぶ)の供給が激減し、いつ追い出されるかわからない不安定な状況に置かれる借家人が増えることを懸念していた。しかし、定期借家の供給は、小規模借家ではほとんどゼロであり、全体でも1%に満たない程度である。 大竹・山鹿論文の主要な部分は、定期借家と一般借家の家賃関数の推定である。この推定にはいくつかの工夫がある。 第1に、最寄り駅までの時間や床面積などに加えて、最寄り駅から東京駅までの時間を各物件ごとに調べている。 第2に、定期借家と一般借家をプールして、定期借家であるかどうかのダミー変数を用いた推定を行なっている。また、ダミー変数と住宅特性とのクロス項も導入し、床面積が広くなるにつれて定期借家と一般借家の家賃水準の差が大きくなるかどうかといったことを調べている。 第3に、一般借家と定期借家との間で誤差項が異なっている可能性を考慮して、単純な最小2乗法ではなく、加重最小2乗法を用いている。 主要な結論は以下のとおりである。 ?51m2未満と以上とにサンプルを分けて推定を行ったところ、51m2未満では定期借家と一般借家とで有意な差がなかった。しかし、51m2以上の場合には有意な差が見られた。 ?51m2以上の場合には、定期借家が一般借家よりも家賃が低くなる傾向をもつが、この傾向は床面積が広くなればなるほど大きい。定量的には、床面積が10%広くなると、一般借家と定期借家との間の家賃の差が4.4%大きくなる。 ?借家が古くなるほど、また、東京駅までの時間距離が長くなるほど、定期借家と一般借家の差が広がる。これは、定期借家は現在の短期的な状況を反映して家賃が決まるのに対して、一般借家は将来の長いタイムスパンを見て家賃が決まるためと思われる。 家賃関数の推定結果を用いて、いくつかのケースについて定期借家と一般借家の家賃を予測している。それによると、床面積が70m2の場合には、定期借家の家賃のほうが12.1%(2.3万円)低く、100m2であれば、24.9%(7.6万円)低い。これからも、床面積が広くなると定期借家と一般借家の家賃の差が拡大することがわかる。 大竹・山鹿論文では、リクルートのホームページから毎月末に採取したサンプルを用いている。これは多大の時間と労力を要する作業である。個々の研究者がそれぞれの研究テーマに応じて個別にデータ収集を行なっていてはあまりにロスが大きい。 聞くところによると、リクルート社では住宅データのデータベースを整備しているようである。このようなデータの学術利用が可能になると、研究の飛躍的発展が見込まれる。アメリカでは、データベースをもつ企業の理解が進んでおり、学術利用のためにデータを安価に提供している例が多い。日本ではこういった機運が乏しいのが残念である。 賃料の高い都心に企業がオフィスを構えるのは、そこが便利で、生産性が高いからである。都心立地の便利さの最大のものは、対面コミュニケーションのための移動費用(主として時間費用)が低いことである。 こういった都心立地のメリットは高い賃料に反映されている。したがって、賃料格差を見れば、集積の利益の定量的な推定ができる。八田達夫・唐渡広志論文(「都心における容積率緩和の労働生産性上昇効果」)は、このような考え方に基づいて、都心における容積率緩和の便益を推定している。 八田・唐渡論文の想定は、?地区内(具体的には、500mメッシュ内)における従業者数が増加すれば、各従業者の労働生産性が高まる、?地区外については、従業者数をその地区までの移動時間の2乗で割り引いたものの合計(地区外従業者ポテンシャルと呼ぶ)が増加すると、従業者の生産性が高まる、というものである。これらの仮定のもとでオフィス賃料関数を数学的に導出し、それを東京における賃料の個表データを用いて推定している。 オフィス賃料関数の推定結果によると、地区内従業者数と地区外従業者ポテンシャルの双方が統計的に有意であり、これらが賃料を上昇させる効果をもっている。 オフィス賃料関数が推定できれば、それを用いて容積率緩和の便益の推定ができる。容積率を緩和すれば、それに比例してその地区の従業者数が増えると仮定して、二つのケースのシミュレーションを行なっている。第1は、容積率を緩和して増える従業者がすべて都市圏外から来る開放型都市のケースである。第2のケースは、ある地区で従業者が増えると他の地区での従業者が減少する閉鎖型都市である。 第1の開放型ケースでは、丸の内地区の労働者数を10%増やすと、丸の内地区の生産性は0.68%上昇する。他地区の生産性も上昇するので、東京圏全体では1%上昇する。閉鎖型都市での生産性上昇率は開放型都市よりも低いが、それでも都市全体で0.56%上昇する。 八田・唐渡論文は、容積率緩和の便益を計測しようという重要かつチャレンジングな課題に挑んだ先駆的研究である。今後の研究の精緻化が期待される。精緻化の方向としては、以下の二つがあげられる。 ?容積率緩和のコスト面の計測を行ない、費用便益分析を行なう。 ?賃料関数の推定において、従業者数という内生変数が説明変数のひとつに入っており、推定された係数のバイアスが懸念される。操作変数の導入などの推定手法の工夫を行なう。 日本ではいまだに政策金融の比重が大きい。とくに、住宅金融の分野では、住宅金融公庫が大きな地位を占めている。政策金融の比重が大きい国は欧米諸国ではまれであるが、その例外がドイツである。吉野直行・F.ロバシク論文(「ドイツの公的金融システムと住宅政策」)は、ドイツの政策金融制度を紹介し、日本の仕組みとの比較を行なっている。 ドイツの政策金融機関のなかで大きいのは、復興金融金庫とドイツ調整銀行である。住宅金融については、住宅貯蓄金庫と実物担保信用銀行の二つが大きな役割を果たしている。 日本と比較してドイツの政策金融機関が大きく異なるのは、政策融資が民間金融機関を通してなされ、不良債権のリスクは民間金融機関のほうが負っていることである。このことから、政策金融機関には不良債権が発生しない構造になっている。もちろん、こういった仕組みでは、達成したい政策目的が必ず達成される保証はない。リスクが大きいと思えば、民間金融機関が貸出を行なわないからである。 ドイツ政府は融資以外に信用保証も政策目的に活用している。ドイツの保証会社と日本の信用保証協会との決定的な相違は、日本では融資に対して100%の保証をするが、ドイツでは融資額の80%までの保証しかしないことである。日本の仕組みは銀行に審査インセンティブを与えないので、大きなモラル・ハザードを招いてしまう。 ドイツの制度自体最善のものとも言えないが、それを調べることによって日本の政策金融制度の欠陥が浮き彫りになってくる。吉野・ロバシク論文は、国際比較によって学ぶことが大きいことを如実に示している。(金本良嗣) |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
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