タイトル | 季刊 住宅土地経済 2002年春季号 | ||||
---|---|---|---|---|---|
発行年月 | 平成14年04月 | 判型 | B5 | 頁数 | 44 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
---|---|---|---|---|
巻頭言 | 中国の変化は早い | 高橋進 | ||
特別論文 | 住宅土地経済の研究を支援する「空間データ基盤システム」 | 岡部篤行 | ||
研究論文 | 戸建住宅の価格形成に関する空間影響の探索 | 高暁路・浅見泰司 | ||
研究論文 | 不良債権処理と不動産競売市場の課題 | 田口輝幸・井出多加子 | ||
研究論文 | アメリカの家賃調整関数の再推定 | 隅田和人 | ||
海外論文紹介 | 環境変数と不動産価格 | 崔廷敏 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 高暁路・浅見泰司論文(「戸建住宅の価格形成に関する空間影響の探索」)は、土地・住宅価格のヘドニック分析を行なう過程で、モデルを改善するために用いることができる新しい方法を論じている。回帰分析は、隠れた変数を見つけることで改善できることが多い。高・浅見論文では、その変数を見つける方法として、?残差分析と?地理的重み付き回帰(GWR=Geographically Weighted Regression)の二つを紹介し、それぞれが異なった目的に役立つことを明らかにしている。 まず残差分析は、第1段階の回帰分析の結果に基づいて、その残差を説明しそうな変数を追加して回帰分析を行なう方法である。これは伝統的な方法であるが、高・浅見論文では、残差の大きさを図1の地図上の等高線図に描き、どの地点で残差がとくに大きいかわかる方法を採用している。図からただちに明らかなように、この方法では、通常の残差分析に比べて隠れた変数を発見しやすい。表1が示すように、このような手法で発見した新たな変数を追加して、分析の改善が得られている。 一方、GWRという方法は1990年代に開発された新しい方法である。これは意図的にヘテロ・スケダスティシティーをつくり出す分析方法である。 通常の回帰分析では誤差項の分布がどのサンプルに対しても、分散が一定と仮定して分析が行なわれる。しかし、現実のサンプルでは大きな数字のサンプルの分散が大きいことが多い。その場合、誤差の分散一定を仮定するために、係数の推定値には、小さな数字のサンプルより大きな数字のサンプルのほうが大きな影響を与えてしまう。これがヘテロ・スケダスティシティーが起きる状況である。これを避けるために、通常は、説明変数と被説明変数の水準をサンプル間であまり極端に異ならないように調整する措置を取る。 GWRは、ある選ばれた地点の近くのサンプルにより大きな説明力を持たせるような形でRegressionを行なう。このため、それぞれのある地点とサンプルとの距離があるほど誤差項の分散が大きいと想定し、回帰分析を行なう。その結果、各地点ごとに、その地点の近辺のサンプルをより重視した係数推定値が得られる。したがって、同じ変数、たとえば容積率についても各地点用の推定式ごとに異なった係数が見つかる。 次に、この係数の空間分布を地図の上に記述することにより(たとえば図3、図4)、与えられた係数がどの地区でとくに大きな値を持つかがわかる。これと回帰分析に含めなかった新変数とを相関させる。その結果、高い相関係数が得られる新変数と旧変数の組み合わせは、旧変数が新変数の代理変数の機能を一部で果たしていたことをうかがわせるから、この新変数を付加的に採用する。このように、残差とは別な方法で、新しい有効な変数を探索することができる。 残差分析とGWRの分析の比較が表3にある。これによって、地点の特性を示す変数は残差分析に反応し、地区特性を示す変数はGWRにより強く反応するということがわかった。すなわち、隠れている変数の性質で、この二つの手法の優劣が逆転するわけである。 高・浅見論文の分析は、Regressionの推定結果を改善するための組織的な探索方法を紹介するもので、多くの研究者にとって有用であろう。 田口輝幸・井出多加子論文(「不良債権処理と不動産競売市場の課題」)は、大阪地方裁判所の土地競売データを統計的に分析して不動産不良債権の具体的状況を分析したものである。とくに、バブル期には、担保価値の数倍もの貸し付けが行なわれていた実態が明らかにされている。 大阪地方裁判所の1997?2000年に100回実施された土地競売データのなかで、大阪市内に所在する土地のみの物件が対象とされている(275サンプル)。 表2には、このデータから住宅地、商業地、工業地別に債権回収率(=不動産売却額÷抵当権設定額)の平均値が計測されている。バブル期の抵当権設定額がいかなる状況であったかを分析するためには、いわゆる「掛け目」(=抵当権設定額÷担保価値)を分析する必要がある。しかし、抵当権設定時から競売における売却まで相当期間が経過し、その間地価は大きく変動しているために、回収率の逆数は、掛け目としては不適切である。田口・井出論文では、抵当権設定時の担保価値を見出すために、設定経過期間中の地価変動率を考慮して売却額から評価額を逆算して掛け目を求めている。 こうして計算された掛け目の測定結果はショッキングである。第一抵当権の場合、掛け目の平均は6.1倍である。すなわち担保価値の6倍の貸し付けを行なっていたことになる。 異常に高い掛け目の原因として著者が指摘している第1の理由は、バブル期の地価急騰を受けて将来の地価上昇を見越した貸し出しが行なわれていたことである。 第2に、日本の債務契約ではアメリカのように掛け目8割という厳格な運用は行なわれず、「リコース・ローン」が大半であり、債務不履行の場合には担保物権だけではなく債務者の他の資産にも求償権が及ぶということである。 第3に、日本では根抵当権が広く採用されていることである。根抵当権は、特定の債権に対して設定されるのではなく、継続的取引で発生する複数の債権に対して、ある限度の範囲内で、自動的に担保するものである。根抵当権は継続的取引に基づく「信用貸し」的色彩が強いため、限度自体が高く設定されていた可能性が高い。また、債務が限度内に収まっているかどうかのチェックが行なわれていなかった可能性も高い。田口・井出論文のデータではとくに根抵当権が多いが、これは、競売以外の方法では回収がきわめてむずかしい債権として、根抵当権が競売市場に供給されているということを意味しているとも考えられる。 回収率は、1997年から2000年にかけて低下している。新規受理件数があわせて増加していることを考えると、法改正や企業が不良債権の最終処理に踏み切るケースが多くなり、回収見込みがかなり低い債権まで競売市場に供給されてきたという見方をとっている。さらに、第三抵当権まで含めた場合と第一抵当権のみの場合で回収率に極端な開きがあり、高順位の抵当権回収がきわめて困難であるということがわかる。 落札率は、観察期間中改善している。平成10年の法改正以前では不売の場合に、最低価格を不変のまま再入札をしたが、最近では最低価格が機械的に下げられるようになったことが原因であると考えられている。 隅田和人論文(「アメリカの家賃調整関数の再推定??Bardsen型エラー修正モデルによる接近」)は、税制改革が家賃に及ぼす影響を分析したDiPasquale and Wheaton(DPW)のモデルを改善し、理論的にもより自然で、フィットもいい分析を行なったものである。 DPW論文は、持ち家住宅の資本コストの変動が実質家賃の動きを説明することを示し、それによって税制改革の家賃への分析を行なった。隅田論文は、DPW論文が用いた家賃調整関数のモデルは、そのまま理論的に筋の通った形で実証するとフィットが悪く、DPWが行なったような修正をするとフィットはいいが、モデルの理論的根拠が弱くなるという欠点をまず指摘している。 この問題を解決するために、家賃調整関数によるモデルではなく、需給均衡式によって家賃を説明するモデルをつくった。これをDPWと同じデータを使って、一般自己回帰分布ラグ・モデル(ADLモデル)の特殊型であるBardsenの定式化によって推定した。図1は、その結果の理論値と実測値を比較している。DPWモデルよりフィットがよく、しかも谷や山を適格に予測する結果を得ている。 この結果、毎年の実質家賃変化率に対して、所得変化率、雇用者率、1期前の家賃変化率が影響を与えることが明らかになった。さらに、長期均衡家賃を変動させる要因として、持ち家住宅の資本コストがきくことが明らかにされた。家賃と税の関係について研究する者にとって、方法論に関する貴重な論文であるといえよう。(八田達夫) |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
---|