タイトル | 季刊 住宅土地経済 2006年秋季号 | ||||
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発行年月 | 平成18年10月 | 判型 | B5 | 頁数 | 42 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 不動産証券化と住宅政策 | 森泉陽子 | ||
特別論文 | 豊かな住生活の実現に向けて | 榊正剛 | ||
研究論文 | 東京は過大か | 金本良嗣 | ||
研究論文 | 中心市街地の活性化政策の評価分析 | 栗田卓也・中川雅之 | ||
研究論文 | 県別データによる地価の動向 | 才田友美・橘永久・永幡崇・関根敏隆 | ||
海外論文紹介 | 世代間移転と貯蓄行動 | 白石憲一 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 金本良嗣論文「東京は過大か――パネルデータによる再推定」は、ヘンリー・ジョージ定理を応用して、東京という大都市が過大であるかどうかに関するこれまでの一連の実証研究を紹介したうえで、あらたに興味深い実証結果を示している。集積の経済に対するシャドー・プライス(ピグー補助金)の総額と都市全体の地代総額を比較すると、都市の規模が過大かどうかを検証することができる。 ここでは、2つの問題が議論されており、都市の数を一定と考えると、東京は過少になる傾向があるのに対して、都市の数を増やすことを考えると、東京は過大になる傾向があるという理論的な結論が紹介されている。都市の数を自由に増やすのはきわめて困難なことである。筑波学園都市のように、実際にひとつの都市を形成するには、かなりの長い年月がかかる。 こうした理由から、都市の数が最適でない点を前提にして、都市規模が過大であるか否かを分析することが重要な作業になってくる。 しかし、土地の貸借取引は実質的に行なわれていないことから、地代のデータを把握することは難しい。こうした地代のデータについての不十分性を考えると、地価をそのまま用いて、地価と集積の経済の推定値であるピグー補助金額を比較することが考えられる。 他方、集積の経済を推定する際に、都市の生産関数を推定しなければならないが、そのとき問題なのは、第1に都市圏をどのように定義するかという点である。第2は、都市に存在する社会資本を考慮したときに、その社会資本が人々にとって純粋な公共財になるのか、あるいは料金支払いを伴ったものであるのかを区別しなければならないという点である。 こうしたさまざまな困難な問題を少しずつ克服したうえで、興味深い結論が得られているのが、この論文の特徴である。ピグー補助金と地価の比を見てみると、東京と大阪が他の都市に比べて過大である可能性の高いことが指摘されている。 ところで、こうしたヘンリー・ジョージ定理を用いるという巧妙な方法によって、東京が過大であるとする結論に対して、他方では、東京に対する集積をもっと高めるべきであるとする経済学者たちも存在する。彼らは、容積率等の規制によって、都心の高度利用が実現しないために東京が外延的に拡大していると主張している。 容積率規制等が緩和されて高度利用が実現したときに、通勤費用の低下が生じるだろう。こうした通勤費用は、集積の不経済をもたらす要因のひとつである。容積率規制の緩和によって高度利用が実現すれば、通勤費用の低下が生じ、それによって集積の不経済の要因が取り除かれる。それは、「東京は過大である」という結論を修正する可能性があるかもしれない。 もちろん都市を高度利用する際の追加的な費用や混雑費用が発生する点は、考慮に入れなければいけない。たとえば、高度利用によって発生する都市内の交通混雑だけでなく、高度利用に伴ってエレベータなどの混雑が生じる。そうした混雑も高度利用に伴う集積の不経済の要素として考慮しなければならない。 栗田卓也・中川雅之論文「中心市街地の活性化政策の評価分析」は、経済学および法学両方のアプローチを相対化したうえで、中心市街地の衰退の原因とそれに対する望ましい対策について考察した論文である。 中心市街地内のいわゆる「シャッター通り」と呼ばれる地域は、地方だけでなく都市圏においても駅周辺に多数存在している。これに対しては、郊外に出店しようとする大店舗に対する立地規制によって、中心市街地が再生できるとする考え方が存在する。こうした安易な考え方を含めて、その原因はどこにあるのか、望ましい対策は何かという点を検討している。これまでの法学的なアプローチの問題点を経済学的な観点から批判的に分析したという意味で、興味深い論文になっている。 中心市街地衰退の大きな原因のひとつは、モータリゼーションの進展である。そうしたモータリゼーションに、中心市街地が迅速に対応できなかった原因としては、土地利用転換コストがあげられる。 実証分析では、中心都市の都市圏全体に対する人口比によって郊外化を測定するという手法を用いて、この人口比のインデックスが、モータリゼーションの進展や所得水準さらには中心市街地に存在する人々の高齢化によって、どのような影響を受けるかが検証されている。実証分析では、高齢化によって郊外化が進展すること、またモータリゼーションの程度を示す1人当たり乗用車保有台数の増加が、郊外化を促進しているという結果が得られている。 こうしたことは、自動車に乗って買い物する際に中心市街地の混雑を引きおこす結果、中心市街地が敬遠され、より交通の便利な郊外が選択されるという結果を反映している。また、そうした需要を受けて郊外に大規模な駐車場を整備した大型小売店が立地することが合理的な選択の結果として示される。 こうした議論にもうひとつ付け加えておかねばならないのは、税制の役割である。中心市街地の土地利用転換がきわめて遅いのは、土地税制に関係しているように思われる。従来の商店街を担ってきた地主であり商店主が高齢化して、その高齢者が持っている土地や店舗を売却すると無視できない額の土地譲渡所得税が課税される。さらには、それを金融資産で相続した場合には、相続税の負担もかなりの額になる。 こうした点を考えると、土地所有者たちは土地を売却せずに相続まで持ち越すことが合理的である。それらを前提にすると、従来の中心市街地での土地転換が進まないことは合理的なこととして説明できる。したがって、土地の転売を促進するような中立的な土地税制に改正する必要がある。 才田友美・橘永久・永幡崇・関根敏隆論文「県別データによる地価の動向」では、第1に、これまでの地価データについての偏りを修正するという目的から、新たに各地域の土地価額をウェイトにした「加重平均公示地価」を用いることを提案している。第2に、地価データに関する県別のクロスセクションデータと時系列データを組み合わせたパネル推計の応用例を示すことによって、こうした分析の応用性を提案している。 これまでも地価公示の問題点についてはたびたび指摘されてきた。その原因の第1は、地価公示そのもののバイアスで、地価公示が連続した調査地点をとっていないことから生じている。第2は、こうした地価公示を平均化する段階で生じるもので、全国一律に同じウェイトで単純に平均化したためにバイアスが生じる。例えば東京のように集積度の高い地域の地価の上昇と、集積率の低い地方の地価上昇率を同じウェイトで足し合わせるのは、もともと無理がある。このバイアスを取り除くために、これまでも県別の地価データを得るためには、県別の土地総資産額をその宅地面積あるいは都市計画区域の面積で割ることによって、平均的な地価を求めていたという事情がある。 著者たちが提案している土地価額をウェイトにした加重平均の地価を用いると、単純平均の公示地価に比べて下落幅が大きくなり、より実勢に近づいたデータであることが確認されている。 第2の目的は、パネルデータを用いたエラーコレクションモデルによって、各都市圏の地価関数を推計する点にある。しかし、エラーコレクションモデルというのは、もともと基本的には投資関数や貨幣需要関数について考えられたものである。何らかの摩擦が存在するために、望ましい需要と実際の需要との間の差を調整するように貨幣需要や資産需要が求められるというのが、エラーコレクションモデルの基本的な考え方である。これに対して、地価の動きをエラーコレクションモデルを用いて、均衡地価との乖離で資産価格を考えようとする想定には違和感を覚える。 推計ではファンダメンタルな変数を用いて推計している。この際に、県と県の間の物流量を用いて、各県の代替性の度合いを測っている点は興味深い。また、都市圏においては、地価と「均衡地価」要因との相関が大きいのに対して、地方圏ではそれがあまり大きくなく、むしろ不良債権要因が地方の地価の足かせになっているという。この指摘は、不良債権が、何らかのメカニズムを通じて、その地域の将来の生産性を反映していると言えるのかもしれない。(YF) |
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