タイトル | 季刊 住宅土地経済 2007年夏季号 | ||||
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発行年月 | 平成19年07月 | 判型 | B5 | 頁数 | 42 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 「所有から利用へ」の25年 | 稻本洋之助 | ||
特別論文 | 賃貸住宅と不動産証券化 | 巻島一郎 | ||
研究論文 | リピートセールス法による品質調整済住宅価格指数の推計 | 原野啓・清水千弘・唐渡広志・中川雅之 | ||
研究論文 | 都市圏分類による社会資本ストックの生産力効果 | 朝日ちさと | ||
研究論文 | オフィスと住宅の床面積の組み合わせと通勤混雑の関係 | 三浦千加 | ||
海外論文紹介 | 英国データによる住宅ローン需要理論モデルの検証 | 行武憲史 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 日本においても住宅価格指数の推計が行なわれるようになってきている。原野啓・清水千弘・唐渡広志・中川雅之論文(「リピートセールス法による品質調整済住宅価格指数の推計」)は、リピートセールス法による住宅価格指数の推計を検討している。 海外においては、リピートセールス法はヘドニック法と並んで広く用いられているが、日本ではいまだ用いられていない。中古住宅取引データが蓄積されつつあるので、リピートセールス法の検討を始めることは時宜を得ている。 用いたリピートセールス法は、最も古典的なBMN型指数、誤差項の不均一分散に対する対策を行なったCS型指数、建築後年数の影響を考慮したAge adjust型指数の3つであり、これらをヘドニック指数と比較している。 この論文は、東京都区部のマンションデータを用いて、これらの指数を推計している。データの制約から、1度目の取引が新築で、2度目が中古取引のものに限定されており、残念ながら3度目以上の取引が行なわれた物件は含まれていない。 主要な結論は以下の3つである。第1に、BMN型指数はヘドニック型とかなり乖離する傾向があり、推計期間が長くなると大幅に低くなる。第2に、CS型指数による修正はBMN型指数をわずかに上昇させるだけで、ほとんど変化をもたらさない。第3に、建築後年数を入れたAge adjust型は、推定期間後半部を大幅に上昇させ、ヘドニック型を若干上回るようになる。 また、電車や地下鉄の新規開業や複々線化によって交通利便性が向上した地域を除いたサンプルでの推定も行ない、Age adjust型が低下することを示している。しかしながら、低下はほんのわずかであり、依然としてヘドニック指数より高くなっている。 この論文では、これらの結果から日本では建築後年数を考慮したAge adjust型指数を用いることが望ましいとしている。この結論自体は妥当なものであろうと思われるが、どの手法が望ましいかの判断基準が提示されておらず、ヘドニック指数と近いことでAge adjust型が望ましいと主張しているように見える。推計された指数を比較するだけでなく、指数の計算に用いた推定式の統計学的な妥当性を検討することが必要である。 社会資本が経済活動にどの程度貢献しているかの推定は数多く試みられており、本誌にも頻繁に掲載されている。朝日ちさと論文(「都市圏分類による社会資本ストックの生産力効果」)では、都市圏ベースの推定を行なうために、社会資本ストックデータを改善するという地道な作業を行なうとともに、パネル推定や操作変数法を用いて推定手法上の工夫もこらしている。 都市圏ベースの推定の必要性については、都道府県が経済集積の実態とは乖離していることから明らかであろう。東京圏では都道府県を超えた経済活動を無視できないし、地方圏では県単位では大きすぎることが多い。 都市圏ベースの推定を行なうときの最大の問題は、多くのデータが都道府県単位になっていることである。都道府県単位でしか得られないデータは、通常は、産業別従業者数等の密接に関係すると思われる市町村データを用いて市町村に按分する。朝日論文では、社会資本ストックデータについて、道路延長等の物的施設データを用いてこの按分をより精緻にしている。 推定手法については、1974年から1998年までのパネルデータを用いて、モデル選択を行なった結果、2方向固定効果モデルを選択し、これにさらに操作変数法を適用している。 操作変数を用いた推定においては、社会資本ストックが生産にプラスの効果をもつという結果が得られている。大都市雇用圏では、社会資本全体の生産力効果を弾力性で表すと0.047である。分野別の推定も行なっており、生活基盤の弾力性が0.062で最も大きい。 大都市雇用圏と小都市雇用圏を比較すると、弾力性は小都市雇用圏のほうが大きいが、資本ストックが域内総生産に比較して大きいので、限界生産性は小都市雇用圏のほうが小さくなっている。 論文中でも指摘されているが、都市集積のパラメータがマイナスになっている。これまでの研究においては、都市集積のパラメータがプラスで、社会資本のパラメータがマイナスになることが多かった。この論文でも、操作変数を用いない推定では、大都市圏における都市集積のパラメータがすべてプラスになっており、社会資本のパラメータについてはマイナスになっているケースが多い。操作変数の選択が適切かどうかといった点について、これからの検討が必要である。 東京ミッドタウンが今年の3月末にオープンして、たいへんな賑わいをみせている。三浦千加論文(「オフィスと住宅の床面積の組み合わせと通勤混雑の関係」)は、この東京ミッドタウン開発(六本木防衛庁跡地再開発)を対象に、都心再開発が通勤混雑に与える影響を分析している。その際のひとつの焦点は、オフィスの集中によって悪化する通勤混雑を開発地域内の住宅供給によって緩和させる方策がどの程度有効であるかの検証である。 都心再開発が通勤混雑に与える影響を見る際に、まず考えなければならないのは、それが都市全体の労働人口を増加させるかどうかである。東京圏の人口が全体として増加しないという閉鎖都市を仮定すると、都心再開発は他地区の就業者数を減少させ、それらの地区では混雑緩和がもたらされるので、全体として通勤混雑が緩和することも考えられる。 これに対して、労働人口の増加が東京圏外からの人口流入によってもたらされる開放都市の場合には、他地区における混雑緩和は見込めない。 開放都市モデルにおける推計結果では、混雑率の増加が大きいのは、六本木周辺3駅の降車者が多く通過する東横線祐天寺?中目黒、山手線(内回り)代々木?原宿などの区間である。これらの2区間では、開発によって従業者が16.3万人増加すると、混雑率が10%以上上昇する。しかしながら、全体の平均では混雑率増加は小さく、3.2%にとどまっている。 また、六本木周辺の日比谷線、大江戸線、千代田線の3路線では混雑率は大きく上昇するが、もともとの混雑率が低いので、ピーク時混雑率は平均で110%にとどまる。 東京圏全体の人口が変化しないとする閉鎖都市のケースでは、混雑率が低下する区間がかなり見られる。現状の混雑率が非常に高い山手線上野?御徒町、東海道本線川崎?品川などで混雑率が低下している。混雑率が上昇するのは、開放都市モデルで混雑率上昇が大きかった祐天寺?中目黒、代々木?原宿などである。混雑率が低下する区間のほうが上昇する区間よりも混雑が激しいので、東京圏全体で見ると混雑が緩和されると見ることができる。 この点は、六本木での開発を大手町での開発と比較するとより明確になる。再混雑区間の混雑率が10%以上増加する路線は、六本木開発の場合には2路線であるが、大手町開発の場合には8路線となっている。また、最混雑区間における混雑率の増加幅も大手町のほうが大きくなっている。 混雑率上昇を防ぐひとつの手段は、オフィス開発と住宅開発を組み合わせることである。オフィス開発によって増加する混雑をすべて解消するためには、オフィスの床面積の9割の住宅床面積が必要になることが示されている。混雑率180%以上の最混雑区間における混雑率上昇だけを解消すればよいとすると、必要な住宅床面積はオフィス床面積の4割になる。東京ミッドタウン開発においては、住宅床面積3割であるので、混雑が完全に解消されるわけではないが、かなりの効果が見込める。 同じ計算を大手町における開発について行なうと、10割と7割になり、大手町ではより多くの住宅供給が必要であることがわかる。 通勤混雑の悪化は都心再開発による外部不経済の主要なものであり、これについての実証的な研究は今後の政策展開にとって重要な貢献になるであろう。論文の最後でも触れられているように、費用便益分析に発展させて、外部不経済に対する課金や住宅付置義務等の政策分析がなされることが期待される。(KY) |
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