季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2009年秋季号
発行年月 平成21年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言豊かな少子高齢社会の実現を岡本利明
特別論文21世紀型社会への日本の挑戦小宮山宏
研究論文借地権保護と建物の維持管理岩田真一郎・山鹿久木
研究論文首都圏住宅市場のダイナミックス井上智夫・清水千弘・中神康博
研究論文地震発生リスクと生活の質直井道生・瀬古美喜・隅田和人
海外論文紹介居住地の選択小林庸平
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ノート
本号に掲載された論文は、いずれも現実の事象を経済学の理論によって解釈し、それを実証分析でさらに確認するという、本誌の趣旨に合致した政策的にも意義深い論文となっている。
岩田・山鹿論文は、借地権保護制度が居住者の居住継続確率や維持管理投資にどのような影響を与えるかという、いくつかの先行研究が取り組んできた問題について、新しい理論的なモデルを提供し実証分析を加えたものとなっている。井上・清水・中神論文は、不動産価格の推移が期待形成のあり方や不動産市場の弾力性に大きく影響を受けるという従来から指摘されているテーマに、各地域ごとのミクロな市場の構造を考慮する必要があるという新しい視点を提供している。また、直井・瀬古・隅田論文は、地震リスクのディスアメニティを数量化するという、いくつかの先行研究があるテーマを、QoL というより広い視点から捉えなおしている。
このような政策的に重要なテーマを標準的な経済学の理論と実証分析によって検証するという、政策の企画立案には必須の対応が、実務の現場でも取り上げられることが強く期待される。

岩田・山鹿論文(「借地権保護と建物の維持管理」)は、借地権保護が維持管理投資水準や借地人の居住継続確率にどのような影響を与えるかについて、理論的にそして実証的に分析を加えた精緻な論文である。この問題については、金本(1989)、瀬下・山崎(2007)などの先行研究が一定の成果をあげているが、必ずしも同じ結論が得られていないオープンクエスチョンに相当する問題であった。
本稿では借地権保護を2 つの面から捉えている。1 つは契約が更新されない場合は、借地人が地主に建物を買い取ってもらえるという特徴を有することである。この特徴は、借地人が建物価値を発現する際に取引費用が発生させることを指摘したうえで、取引費用の存在は借地人をして転居をためらわせるという作用を持つとともに、継続居住したときの便益の上昇をもたらすため、維持管理投資に対しては増加、減少双方をもたらす可能性があることを、理論的に明らかにしている。そして住宅需要実態調査のデータを用いた実証分析で、借地は持家に比べて維持管理投資が有意に少ない事実などを発見している。
さらに借地権保護のもう1 つの特徴として、継続地代を市場地代よりも低くすることを取り上げ、借地人が継続居住した場合の純便益を大きくし、借地人の維持管理投資水準を引き上げることを指摘している。つまりこの特徴は、取引費用の存在による維持管理投資の過小問題を軽減することができる、とするインプリケーションを導いている。このことは、住宅需要実態調査を用いて、居住期間が30年を超えた持家と借地の比較を行なうことで、借地の維持管理水準が持家に比べて少ないとはいえないこと、建物状態に関しても有意な結果が得られていないことから、実証的にも裏付けられている。
この論文はIwata and Yamaga(2009)の解説としての位置づけも有するため、モデルや実証分析の詳細は元の論文にさかのぼることが必要である。しかし、述べられている主張は論理的であり、実証分析も説得的である。だが、瀬下・山崎(2007)などとの相違は、「借地人が建物を処分する際に取引費用が発生する形で決着しているか」などの設定に大きく依存しているように思われる。この部分は別の形で実証的な分析が待たれる分野である。また、30年超の住宅に関する実証分析についても、もともと質の頑健なものが残存しているサンプルセレクションバイアスなどへの考慮が必要であるようにも思える。しかし、この論文は、オープンクエスチョンに対して実証的にも回答を与えた高い貢献の論文と評価することができる。

井上・清水・中神論文(「首都圏住宅市場のダイナミックス」)は、バブルの生成から崩壊を経て、今日に至るまでの首都圏の住宅価格の動きが、大きなマクロショックへの対応として非常にゆっくりと推移したことを分析したものである。まず、シミュレーションによって住宅供給の価格弾力性の値が小さいほど、そして、期待形成がバックワードルッキングである場合に、需要ショックに対する反応が緩やかに行なわれることが示される。その後、この仮説は実証的に分析されるが、この論文の大きな特徴は、期待形成のあり方や弾力性をマクロに把握するのではなく、首都圏における住宅市場のダイナミックスを需要・供給のコミュニティ間の違いに考慮して分析している点であろう。このため、首都圏住宅市場における市区別の住宅価格指数を独自に作成することで、市区別の期待形成のあり方や弾力性を把握し、そこから一定の結論を得ることに成功している。得られた結論は、住宅価格が「ゆっくりとした周期性をもって推移したのは、住宅所有の投機的な動機と住宅供給が価格に対し非弾力的であること、このふたつに拠るところが大きい」というものである。この論文で用いられている実証分析手法も、データの性質などに応じてOLS、Random Coefficient法などが使い分けられており、シミュレーションに基づく予想が手堅い実証分析手法で裏付けられている論文と評価することができる。
今後の発展可能性を期待していくつかの点を指摘したい。まずこの論文のパンチラインである市区ごとの分析が、逆にストーリーをわかりにくくさせているきらいがあるように感じられる。例えば期待形成のありかたとして、家賃・価格比率の符号をもってフォワードルッキングなのかバックワードルッキングなのかという判断を行なっているが、双方のタイプが混在しており、首都圏地価全体を説明する要因としては結論が不明確である。また価格弾力性についても市区別に非常に広い推計値が観測されているため、シミュレーションに沿った結論が出ているのかどうかが必ずしも明らかではない。また、都心部でバックワードルッキングな期待形成が行なわれており、郊外部ではそうではないなどの推計結果自体は、非常に興味深いものであるが、それに対する背景の理論的な説明がないため、ストーリーの説得性を減じている。価格形成のあり方に関する地域的な多様性を解釈する分析の今後の発展を期待したい。

直井・瀬古・隅田論文(「地震発生リスクと生活の質」)は、各地域別の生活の質(QoL)を推定し、地震災害の危険性のディスアメニティがどのような影響を与えているかを分析した論文である。そして分析結果から地震保険制度に関する政策的なインプリケーションを導出している。標準的な格差補償モデルの枠組みを用いて、まず家賃と賃金のヘドニック価格関数を推定し、アメニティ水準の限界的な評価額を算出している。そして、都道府県別のQoL と地震発生リスクの社会的費用のインパクトを推定している。使用しているデータは慶應義塾家計パネル調査であり、用いられている実証分析手法も適切である。そのうえで、地震保険への加入率と地震発生リスクの社会的費用の関係を分析することで、リスクを反映しない料率体系が講じられている可能性を指摘している。地域別の生活の質を、マイクロデータを用いて総合的に分析した、先端的な論文であると評価することが可能であり、また政策インプリケーションも的確で説得的である。
課題として考えられるのは、ヘドニック家賃関数の推定の部分である。ヘドニック関数を推定するためには基本的には同一市場を形成する範囲で、その推定が行なわれる必要がある。この論文は全国同一のヘドニック家賃関数を推定しているが、居住者は地震の発生確率を勘案して北海道と沖縄などを含む広範な居住地選択を行なうだろうか。このような全国共通のヘドニック家賃関数を推定していることは、家賃関数の制御変数として、通常は考慮している都心への時間距離などを使用しないことをもたらしている。このことは、東京などの大都市の生活の質を引き上げるバイアスを持つように思える。これらの実態に即した市場分割を考慮することを今後期待したい。(M・N)
価格(税込) 750円 在庫

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