タイトル | 季刊 住宅土地経済 2010年秋季号 | ||||
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発行年月 | 平成22年10月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 住宅市場への期待 | 木村惠司 | ||
特別論文 | SNAにおける住宅・土地関係項目の処理 | 木新太郎 | ||
研究論文 | 住宅ローン市場と住宅資産 | 中川雅之・長田訓明 | ||
研究論文 | 収益格差が土地利用転換に及ぼす影響 | 清水千弘・唐渡広志 | ||
研究論文 | 太陽光発電買取制度の定量分析 | 大橋 弘・明城 聡 | ||
海外論文紹介 | 子供の健康と近隣環境 | 牛島光一 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | ◇耐用性のある良質な住宅を建設してストック循環型の住宅市場へと移行させようとする動きがあるなか、住宅金融システムの高度化と中古住宅市場の活性化は重要なポイントになる。昨今わが国でもノンリコース型の住宅ローンに関心が集まっている一方、一昨年のリーマン・ショックを契機にノンリコース型の住宅ローンに支えられた米国住宅金融制度を不安視する向きもある。ノンリコース型の住宅ローンを導入することでわが国の住宅市場は元気を取り戻し、ストック循環型の住宅市場へと移行することができるのか。こうした観点から、米国における昨今の住宅ローン市場の動きを整理することによってわが国の住宅市場改善への方向性を模索した中川・長田論文(「住宅ローン市場と住宅資産」)は、時宜を得たテーマであり多くの示唆に富む。 ◇ノンリコースローンとは、債務者がデフォルトし、債権者が担保不動産を処分した後に残債が生じた場合であっても、債権者は債務者の他の個人資産や所得にまで遡及できないローンのことをいう。すでにわが国でも商業用不動産証券化やアパートなどでは見られるが、住宅金融機関の間で個人向け住宅が投資財として捉えられることがなかったために、個人向け住宅ローンは融資担保を債務者の返済能力にまで求めるリコース型だけであった。個人向け住宅ローンの場合、住宅ローンによって住宅を所有しそこから得られる所得は債務者にとっての帰属家賃である。その点を踏まえ、中川・長田論文は平常時と緊急時における請求権の対象をどこまで残すかによって個人向け住宅ローンを3つに分類している。 ◇しかし、中川・長田論文が強調するのは、リコース型であれ、ノンリコース型であれ、債権者にとって緊急時の請求権がどこまで保護されるかどうかという点である。そのために、平常時の請求権を守るために賃金等の返済能力に関する審査の徹底しておくこと、またデフォルト債権を処分しやすい法制の整備すること、さらには緊急時において中古住宅市場で適正な住宅価格がつくように良質な中古住宅市場の確立することなど、多くの改善すべき点が指摘されている。 ◇とくに、中川・長田論文でも議論されているように、良質な中古住宅市場を確立するためには、住宅の資産価格の経年変化などを含め、住宅価格指数の整備が欠かせない。膨大な不動産取引データに基づき住宅価格指数を整備しようとする動きはあるものの、その動きも首都圏などを中心に一部の地域に限られている。わが国の住宅市場とりわけ中古住宅市場を活性化し、ストック循環型の住宅市場へと移行させるためにも、全国主要都市を対象とした住宅価格指数の整備が是非とも必要であろう。 ◎ ◇1980年代、国際金融市場で規制緩和が進んだ。それを受けて世界の至る所でバブルのような現象が見られたが、なかでも日本は凄まじかった。東京はアジアにおける国際金融市場の中心として全世界から注目を浴び、東京都心部のオフィス市場は活況を呈し、商業地地価は急騰してバブルへと突入していく。そしてバブルの崩壊。土地神話は大きく崩れ、土地や不動産からの収益性がクローズアップされていく。清水・唐渡論文(「収益格差が土地利用転換に及ぼす影響」)は、こうしたバブル崩壊後の不動産市場の調整期を振り返り、東京都心部のオフィス市場でどのようなことが起こっていたのか、土地利用の収益格差に着目しながら土地利用の動学的な側面を分析している。 ◇都市経済学の教科書などでも論じられているように、土地開発の最適なタイミングは開発を遅らせることによる費用が開発を遅らせることによる便益を上回るとき、とされる。清水・唐渡論文では、オフィス用途から住宅用途への土地利用転換に注目しているので、事務所の取壊し費用や住宅の建築費などを考慮した後の土地利用転換による収益が、再開発前の土地利用収益を上回れば上回るほど土地の再開発が起こる確率は高くなるということになる。清水・唐渡論文は、東京都都市計画局の「土地建物利用現況調査」による建物単位でのGISポリゴンデータや事務所賃貸料と住宅賃貸料に関するデータなどを利用し、東京23区内において1991年に事務所として利用されていた物件が、1996年までの5年間と次の1996年から2001年までの5年間に、土地利用転換がなされたかどうかという点についてプロビット分析を試みている。また、東京23区を都心部と2つの周辺地域の3つに分けて同様の分析を試みている。 ◇実証結果によれば、事務所の取壊し費用や建替え費用を考慮した後の再開発後の土地利用収益が開発前の土地利用収益を上回っているほど土地利用転換が発生する確率は高くなることを示しており、理論モデルと整合的であった。また、その確率は都心部よりは周辺地域のほうが大きくなることが示された。換言すれば、1990年代冒頭の事務所賃貸料の高騰とその後の下落は、都心部よりはむしろ周辺部における土地利用転換による収益性を高め、オフィス用途から住宅用途への土地利用転換が促進させたということになる。 ◇清水・唐渡論文でも述べられているように、同論文ではオフィス用途から住宅用途への土地利用転換のみを考えているが、都心の再開発の場合、住宅を集約して商業系への土地利用転換を図ることが多いことを考えれば、住宅用途からオフィス用途への土地利用転換についても考慮すべきであったろう。マイクロなデータから理論モデルと整合的な結論が得られたというだけでも興味深い結果ではあるが、より一般的なモデルへの拡張が期待されよう。 ◎ ◇太陽光発電は、温室効果ガス排出量削減の切り札として全世界で注目されるなか、住宅産業においても低炭素社会の成長ビジネスとして急速に動き出そうとしている。世界一を誇っていたわが国の太陽光発電導入量も近年ではヨーロッパからの追い上げにあい、ドイツにその座を奪われた。わが国における太陽光発電の普及を阻んできたのは高い導入コストであり、国の政策的な後押しが足りないのではないかという指摘が多方面からなされてきた。そして昨年11月、それまでの公的補助金に加えて、ドイツなどで成功を収めていた住宅用太陽光発電の余剰電力の買取制度が導入されることになった。大橋・明城論文(「太陽光発電買取制度の定量分析」)は、この新しい電力買取制度が将来の太陽光発電の普及に与える影響を定量的に分析したもので、政策的にも極めて興味深い。 ◇大橋・明城論文は、まず1997年から2007年にわたる都道府県レベルのデータをもとに、太陽光発電に対する需要関数および太陽光メーカーの供給関数からなる構造モデルを推定した。その結果を用いて、kWh当たり48円で始まった買取価格が5年で半減するケースを想定し、今後の太陽光発電システムの生産コストの変化によって2020年までの経済的効果にどのような違いが生ずるかという点をシミュレーションによって定量的に明らかにしている。 ◇大橋・明城論文によれば、生産コストがまったく下がらない場合には2020年までの累積導入量は770万kWであるのに対して、生産コストが5年で半減する場合には3100万kW、生産コストがこれまでと同じペースで低下する場合には1600万kWという結果を得ている。買取制度が導入されず生産コストも下がらない場合の累積導入量が650万kWであることを考慮すると、生産コストがどれだけ低下するかが新たな買取制度の評価を行なううえで鍵となることがわかる。さらに大橋・明城論文は、費用対効果として社会厚生についても評価分析を行なっており、そこでも生産コストの低下の重要性が指摘されている。 ◇もちろん、1997年から2007年までの都道府県レベルのデータから推定された構造モデルを用いて2020年までの経済的効果を評価することを危惧する向きもあろう。シミュレーションを行なううえで、構造モデルのパラメータの推定値が極めて重要な意味をもつことはいうまでもない。その意味では構造モデルの推定結果についてもっと言及しておく必要があったのかもしれない。しかし、生産コストを低下させることこそ新たな買取制度の経済効果を高める鍵になるという結論は、政策当局者にとって重要な指摘である。わが国では費用対効果をはじめとして政策に対する評価分析があまりなされてこなかったことを思えば、このような分析が行なわれていることに勇気づけられる。(Y・N) |
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