季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2011年春季号
発行年月 平成23年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言デフレ克服のために岩田一政
特別論文相続税の複雑性中里実
論文家計の負債構造と消費小川一夫・万軍民
論文市町村合併に着目した土地利用規制競争モデル大澤義明
論文J-REIT税制改正の政策評価分析菅谷いつみ
海外論文紹介社会的相互作用とスプロール森岡拓郎
内容確認
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トリアル
ノート
本号の3 論文は、家計の負債構造と消費に関する理論モデルを提示してミクロ・データで実証した研究、市町村合併に着目した土地利用規制のゲーム論による競争モデル分析、J-REIT 制度に係わる税制改正の政策評価分析と多岐にわたっている。いずれも、丁寧に分析された貴重な研究であり、きわめて興味深い。

小川・万論文(「家計の負債構造と消費――わが国のミクロ・データによる実証分析」)は、債務者である家計に焦点を当てて、1990年代における家計の債務保有の状況はどの程度だったのか、また債務残高は家計の消費行動にどのような影響を及ぼしたのかを、ミクロ・データに基づいて定量的に分析したものである。分析に用いられているデータは、総務省の『全国消費実態調査』から抽出された1989年、94年、99年の3 年分のリサンプリング・データである。これら3 カ年のデータを用いて分析することによって、資産価格が高騰したバブル期と資産価格が暴落したバブル崩壊期というまったく異なった時期における、家計の負債が消費行動に与えるインパクトを分析することが可能となっている。
また、債務と消費の関連に関しては、消費支出全体にとどまらず、消費支出を「耐久財」「半耐久財」「非耐久財」「サービス」といった形態別消費に分類して、費目ベースで過剰債務が消費構造に与える影響も分析している。小川・万論文では、まず、家計の保有する債務が消費行動に対してどのような影響を及ぼすのかを、ライフサイクル・恒常所得仮説に
基づいた2 期間モデルを提示することによって、例示している。結果として、家計の保有する負債は実物資産、金融資産・負債、人的資産を含めた純資産を通じて消費に影響を及ぼすが、家計が借入制約に直面している場合には、負債残高は通常の資産効果に加えて独立した消費抑制効果を持つことが理論的に示されている。
次に、理論分析で得られた結果を、ミクロ・データによる実証分析で検討している。特に、負債が消費に与える効果をとらえるために、負債比率は消費の決定において外生的と仮定して、負債比率を独立した説明変数として用いて分析を行なっている。総消費支出関数の計測結果として、負債比率は、資産変数をコントロールしたうえでも、消費に対して有意な負の効果を持つことが示されている。
さらに、形態別消費支出関数の計測結果では、負債比率は、「半耐久財」「非耐久財」に対して消費抑制効果があることが示されている。
以上のように、小川・万論文の結果は、1990年代における家計部門の過剰債務が支出削減効果を有していたことを示している。すなわち、小川・万論文で示されたような需要削減が90年代以降のわが国における景気低迷を深刻化する一因となったと考えられる。
分析対象となったデータは1990年代のものであるが、最近の金融危機以降の家計の負債構造と消費行動に関してもデータを拡張して分析し、90年代の行動と比較することが可能であれば、より一層興味深い研究となると思われる。

大澤論文(「市町村合併に着目した土地利用規制競争モデル」)は、市町村合併と土地利用規制の問題に焦点を当てて、空間要素を明示的に取り込み、旧行政区域の土地利用規制に関する地域間競争を理論的に取り扱ったものである。プレイヤーを旧行政区域、戦略を土地利用規制、利得を規制緩和による環境悪化損失分と人口増加との和として、非協力ゲームのモデルを構築し、2行政区域が利得最大化行動に従うとしたとき、どのような土地利用規制の組み合わせが実現するのかをナッシュ均衡の枠組みで考察している。すなわち、合併自治体における旧行政区域の行動に着目し、旧行政区域の便益最大化行動を想定している。まず2地域間競争を静的モデルとして2 人非対称ゲームで表現し、支配戦略を用いて、ナッシュ均衡を求めている。次に、市町村合併等地域間の連携便益が、土地利用規制の選択に与える影響を見ている。最後に、日本の自治体という集団の中で、土地利用の指定が広まったり消滅したりする現象を進化ゲームで定式化している。連携便益が大きいと均衡が複数存在するが、社会的に最適な均衡を実現するための方策についても検討している。既存研究で提示されたモデルを拡張し、合意形成の収束プロセスまで考察している。
まず、最も単純なモデルとして、2 行政区域が土地利用指定に関して競争する基本モデルを考えている。2 区域は開発抑制地域の面積が異なり、環境悪化損失がその面積に比例すると仮定する。各行政区域は土地利用規制に関して、「強化」か「緩和」のどちらかを指定する。両行政区域の規制が異なれば、住民の一定割合が「強化」行政区域から「緩和」行政区域へ移動するが、両区域の規制が同じであれば、住民は移動しない。結果として、一意のナッシュ均衡が達成されるが、土地利用分権化は小規模行政区域を有利にすることがわかる。
この結論は、市町村合併と土地利用規制緩和促進が必ずしも整合しないことを意味する。また、移動住民が増加するにつれて、社会的厚生が下がることも示されている。つまり、行政区域間移住に関するモビリティの向上は競争を煽り、結果として、両行政区域とも「緩和」を指定したとしても、結果として社会全体の厚生が最低レベルとなる。地域主権の流れにより、土地利用規制を各地域の判断で柔軟に変更できるようになると、結果として、財政健全化に逆行してしまうのである。
集団モデル型進化ゲームの動学モデルの考察からは、土地利用規制の義務付けや環境保全意義の啓蒙が、社会的厚生を高めるのに有効であることが示されている。

菅谷論文(「J-REIT 税制改正の政策評価分析」)は、J-REIT制度に係わる平成21年度の税制改正のアナウンスメント効果を定量的に示し、その政策評価を、実際に合併が成立したケースも考慮して、イベントスタディの分析手法を用いて行なったものである。
平成21年度の税制改正が行なわれるまでは、90%超配当要件の判定式の問題と、合併税制の未整備の問題があった。それに対して、平成21年度税制改正大綱により、90%超配当要件に内在する税会不一致に伴う利益全体に対する法人税課税の懸念が払拭され、さらに、合併税制が整備されることで再編・成長の手段が増え、市場にダイナミズムが与えられ、また柔軟性を示すことで、J-REIT 市場の信頼性が向上することが期待されることとなった。
そこで、菅谷論文では、以上のような税制改正によるこれまで問題とされていた法人税の課税リスク軽減の期待が、市場ではどのように評価されたかについて分析している。株式市場が効率的であることを前提として、イベントスタディの手法を用いて、イベントがなかった場合の株価を推計し、当該推定値と株価の実績値の差異をもってイベントの効果を測定している。換言すると、ある出来事(イベント)が生じなかった場合のリターン(ノーマル・リターン)を推定し、実際のリターンとの差異(アブノーマル・リターン)をイベントの効果が持続するであろう期間(イベント・ウインドウ)において累積したものをもってそのイベントが株式市場でどう評価されたかを計算している。
具体的には、投資口価格(株価)は理論上配当割引モデルで決定されるので、本来法人税課税が予定されていないJ-REIT に対する法人税課税は投資家への配当を直接減少させることになるので、投資家が法人税課税のリスクを織り込んでいればREIT の株価は、下落することになる。課税リスクが原因で株価が低迷していたとすれば、それが軽減される政策が公表された場合、株価は本来の価格への上昇が期待されるので、この上昇分をアブノーマル・リターンとして推計し、その累積値をもって市場における税制改正の評価としている。サンプルとしては、J-REIT 投資口価格として、上場投資法人41銘柄のものを用いている。
分析結果より、投資口価格の低迷の背景として、法人税の課税リスクの上昇が織り込まれていたと解釈できることが示されている。
次に、各REIT の累積アブノーマル・リターン(CAR)の違いはいかなる要因によるものかを、回帰分析を用いて分析している。要因分析結果からは、減損リスクのみでは税制改正の評価を説明できず、スポンサーの規模による影響も評価のポイントとなっていることが示されている。
今後、J-REIT 市場が、合併後、どのようなパフォーマンスを取るのか、さらにデータを累積して分析されることを期待する。
価格(税込) 750円 在庫

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