タイトル | 季刊 住宅土地経済 2011年夏季号 | ||||
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発行年月 | 平成23年07月 | 判型 | B5 | 頁数 | 48 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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巻頭言 | 二地域居住でリスク回避 | 伴 襄 | ||
座談会 | 震災復興と都市政策・ 住宅政策 | 薄井充裕・金本良嗣・渋谷和久・森地茂・山崎福寿 | ||
特別論文 | マンションの管理と老朽化・ 震災対策の法的隘路 | 福井秀夫 | ||
論文 | 借地借家法改正後の居住形態選択と 経済厚生の変化 | 瀬古美喜・隅田和人 | ||
論文 | 不動産競売価格と占有権保護 | 井出多加子・岩田真一郎・田口輝幸 | ||
海外論文紹介 | 耐久消費財と家計のエネルギーと水の需要量の関係 | 森田 稔 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 本号の2 論文は、住宅・不動産市場の法制度の問題をそれぞれ理論的、実証的に検討したものである。 瀬古・隅田論文(「借地借家法改正後の居住形態選択と経済厚生の変化――条件付きロジット・モデルによる分析」)』は、慶應義塾大学家計パネル調査(KHPS)を用いて、定期借家法導入が住宅選択(持家、一般借家、定期借家)に与えた影響、経済厚生への影響を分析したものである。 瀬古・隅田論文では、まずKHPSデータをもとに持ち家、一般借家、定期借家のヘドニック価格関数を推定し、推定した関数から、各形態の相対価格を求めている。次に、この相対価格を説明変数に入れて居住形態選択行動を条件付きロジット・モデルで推定している。ヘドニック価格関数もかなり精緻に関数型を3 種類に特定化して行ない、定期借家のヘドニック価格で、契約年数が有意に正となるといった興味深い結果になっている。 住居選択確率関数の推定では、定期借家が独立した市場であること、3つの住宅形態が互いに代替財であることも実証されている。 最後に、3 居住形態の相対価格の係数を用いて補償変分を計算し、借家法の経済厚生の変化も分析している。世帯構成や年齢等によって異なるが、定期借家居住世帯が最も多く厚生を上げ、続いて一般借家、持家となり、経済厚生を改善したと結論づけている。 定期借家の影響については、導入以降さまざまな分析が行なわれ、瀬古・隅田論文でも言及されているように、借家の面積は拡張していないとか、定期借家は家主にとって魅力的でないという指摘も見られる。しかし瀬古・隅田論文は、定期借家の導入によって社会的な経済厚生を推計することによって導入に一定の効果があったと結論づけている。 データの制約上、ヘドニック価格関数の説明変数が限られていて説明力がやや低く、このヘドニック価格関数を用いた相対価格を利用している点や、内生性の問題が解決できているかも疑問として残る。しかし、このような疑問点があるが、瀬古・隅田論文は世帯特性などが精緻なKHPS を使い、既存の研究以上に精緻な選択確率関数を用いて経済厚生まで分析した点で非常に優れた研究であろう。 論文中にも書かれているが、定期借家法の効果は徐々に現れると考えられるため、継続的な分析を行なうとともに、居住者ではなく投資家の選択として定期借家への投資決定も実証していただきたい。 ◎ 井出・岩田・田口論文(「不動産競売価格と占有権保護」)は、1990年代の経済停滞期に不動産競売物件の価格が落ち込んだ理由を、占有者の存在に焦点を当てて、理論的、実証的に分析している。 理論的には通常のオークション理論を用いて、入札者数が入札価格に影響するという点をモデルに明示的に入れ、占有権が最低価格に影響し、それによって入札価格に影響する第1 経路と、最低価格の低下による入札者数への影響を経て入札価格に影響する第2 経路に分けて分析している。実証分析は、1997年度から2004年度の間に大阪地方裁判所で行なわれた不動産競売物件のデータを用いている。 実証の結果、占有者がいると有意に最低価格を低下させ、短期賃借者では7.3%、長期賃借者では24.5%も入札価格が低下していることが明らかにされている。2003年に短期賃借権が廃止され、不良債権処理にも資したと結論づけている。この低下のほとんどは第1経路による入札価格の低下であるが、第2 経路については影響は小さいものの、最低価格の低下が入札者数の減少を通じて入札価格の減少を招いていることが有意に実証されている。第2 経路でも長期賃借者がいると低下幅が1.8%低下と、短期賃借者が居る場合より低下幅が大きくなっている。この第2 経路の実証結果は、井出・岩田・田口論文の貢献と言える。 紙幅の関係上、モデルの詳細な紹介がないこと、最低価格の決定のプロセスや入札価格との乖離と鑑定士の鑑定が入札価格を予測できなかった点の関係が明確になっていないことなど疑問が残る。しかし、このような問題点が残るものの、井出・岩田・田口論文は、占有者、特に長期賃借者の存在が入札価格を減少させ不良債権処理を滞らせた可能性があることを明らかにし、長期賃借権改革が求められることを指摘した点で、施策的インプリケーションに富む論文となっている。 |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
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