タイトル | 季刊 住宅土地経済 2011年秋季号 | ||||
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発行年月 | 平成23年10月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | テーマ | 著者 | |
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特別論文 | 省エネを定着させる住宅支援を | 畑中誠 | ||
特別論文 | 不動産取引価格情報提供制度 | 山野目章夫 | ||
論文 | 住宅価格ヘドニックモデルにおける時間 効果、年齢効果および世代効果の分離 | 唐渡広志・清水千弘・モヴシュク-オレクサンダー | ||
論文 | 戸建て住宅地における形状からみた 典型敷地の推定手法 | 浅見泰司・丹羽由佳理 | ||
論文 | 欧米の金融規制改革が本邦不動産市場等に 与える影響 | 小林正宏 | ||
海外論文紹介 | 空間分位点ヘドニックモデルを用いた農業地価 の分析 | 村上大輔 | ||
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | □本号の3 本の論文は、住宅価格のヘドニックモデルにおける新推計方法を提示した論文、敷地の形状を厳密に推計する方法を提示した論文、欧米の金融規制改革が日本の不動産市場に与える影響を分析した論文と多岐にわたる。 ◎ □唐渡・オレクサンダー・清水論文(「住宅価格ヘドニックモデルにおける時間効果、年齢効果および世代効果の分離」)は、これまでの先行研究では、注意深く識別されてこなかったヘドニック回帰式における時間効果、年齢効果および世代効果を、疑似パネルデータを用いて、それに一般化加法モデルを適用して、識別している。 □ここで、時間効果とは、取引時点の価格への効果を指す。年齢効果は、建築後年数の価格への効果を指す。世代効果は、特定の竣工時点において生じる価格への影響である。この3 効果は、取引年次=建築後年数+竣工年次という関係が成立しているため、通常の線形のヘドニック回帰モデルでは、完全な線形関係になっているゆえに、多重共線性によって、識別することが困難である。それゆえ、これまで、多くの論文では、世代効果は、無視されることが多かった。しかしながら、竣工年次が古い物件の多くは、修繕やメンテナンスが十分に行なわれており、取引される価格は、その影響を反映していると考えられる。そのため、竣工年次に関する固定効果を識別して価格を推計することが重要となるのである。 □そこで、唐渡・オレクサンダー・清水論文では、一般化加法モデルを、独立変数の一部をスムージングしたセミパラメトリック法によって推計している。すなわち、時間効果、年齢効果、世代効果を表す変数のうちの複数を、未知パラメータに対して非線形な項にしている。その計算には、Wood が提案している一般化交差確認法を改良したModified Generalized Cross-Validation(MGCV)アルゴリズムを利用している。 □利用されているデータは東京都目黒区、大田区、世田谷区、中野区、杉並区および練馬区で、1990年から2008年までの期間に取引された戸建住宅である。掲載された情報のうち、成約事情によって情報誌から抹消された時点の価格情報を用いている。疑似パネルデータは、各区ごとに作成されている。 推定結果として、一般化加法モデルの推定において、スムージングした世代効果は古い世代ほど高く、徐々に減少していく傾向があることが示されている。また世代効果を除外した価格指数は、そうでない価格指数に比べて下方にバイアスをもつことが明らかになっている。さらに、結合効果を含むモデルは、そうでないモデルに比べて統計的に好ましく、古い物件ほど修繕や改築などによって価値が高まっている可能性が示されている。 □今後、本研究で得られている興味深い結果が、東京都以外の地域でも得られるかどうか、研究が拡張されることを期待する。 ◎ □浅見・丹羽論文(「戸建て住宅地における形状からみた典型敷地の推定手法」)は、敷地形状に関する分析の基礎として、敷地形状距離という敷地形状を判断する場合の基礎概念を述べ、さらに、敷地形状距離の値を用いて、戸建住宅地における典型的な敷地形状を求める手法を構築している。 この手法を応用することによって、形状という点から敷地と街区の関係、さらには敷地と地域の関係性を分析することが可能になった。これまでの先行研究では、敷地の形状が経済的要因や社会的要因などと関連していることが示唆されている。ゆえに、敷地と関連する要因に基づいて形状を分析することは極めて意味のあることであり、ここで構築された手法を、敷地形状の比較や、標準宅地を定める際に利用することができる。 □具体的には、例えば、長方形の典型敷地が多いという事実があるとしたら、長方形の敷地のほうが不整形敷地よりも経済的利点を享受しているとみなせるので、敷地の不整形度は典型敷地からの図形距離に基づいて算出可能なので、より精緻な敷地評価をすることができることになる。 □敷地とは、街区の細分化された土地単位である。敷地には様々な形状があり、形状によって敷地自体の価値は大きく変化する。そこで、敷地形状の表現を理論的に検討する必要性が出てくるが、そのために、浅見・丹羽論文では、形状比較の基本、すなわち、形状の同一性や類似性に着目する。浅見・丹羽論文では、二つの敷地形状が同一であるということを、平行移動して二つの敷地が一致する場合と定義している。 □次に、二つの敷地形状が異なる場合の形状の差異に関する表現を考慮して、最終的に、敷地形状が同一である場合には0、大きく異なる場合でも1 以下の値を取る敷地形状距離という概念を考案し、解説している。次に、敷地形状から見た、敷地群の中での典型的な敷地を特定する方法について述べている。まず、一つの典型的な敷地形状を、中央値の考え方に基づいて、他の敷地形状との距離の和が最小になるような敷地形状と定義している。次に、それを拡張して、複数の典型的な敷地形状を求める方法も、考案している。 □最後に、東京の戸建住宅の住宅地で、異なる特性を持つ六つのエリア、大田区田園調布、世田谷区梅が丘、世田谷区深川1 丁目、中央区月島、世田谷区深川2 丁目、世田谷区代田を対象として、各エリアからそれぞれ五つの典型敷地を推定した結果が示されている。 □浅見・丹羽論文で言及されているように、図形間距離を用いることによって、不整形度が十分測定可能になれば、敷地形状を組み込んだ従来とは異なる新しい都市経済学の発展が可能となるであろう。今後の一層の研究の進展を期待する。 ◎ □小林論文(「欧米の金融規制改革が本邦不動産市場等に与える影響」)は、国際金融情勢という観点から、欧米の金融規制改革が日本の不動産市場に及ぼす影響を分析した示唆に富むものである。 □「サブプライム問題」と呼ばれる第1 フェーズと、リーマン・ブラザーズ破綻による世界的な金融危機という第2 フェーズに大別される今回の金融危機の反省を踏まえて、欧米では、その再発を防止し、納税者を守るために、金融機関の規制を強化する改革が進行中である。 □欧米の金融規制改革では、金融機関の財務体質の強化、監督体制の刷新、巨大な金融機関が破綻してもそれがシステミックリスクにつながらないような措置が検討されている。これは、金融機関と規制当局のリスク管理の甘さと、金融機関のバランスシート(資本、流動性)が問題だったという反省に基づいて提言されたものである。 □代表例が、アメリカの「ドッド・フランク法」と、国際決済銀行(BIS)のバーゼル銀行監督委員会の「バーゼルIII」である。 「ドッド・フランク法」の柱は、(1)「大き過ぎて潰せない(Toobig to fail)」金融機関の終焉、(2)「ボルカー・ルール」やデリバティブ規制等のリスク管理の強化、(3)消費者保護の強化、(4)規制・監督体制の刷新と考えられる。 □「バーゼルIII」では、資本と流動性の強化がクローズアップされており、資本については、(1)リスクベースの自己資本比率規制を補完することを目的としたレバレッジ比率規制(資本/総資産)の導入と、(2)自己資本の量と質の改善が柱となっている。一方、流動性規制については、(3)30日間の厳しい流動性ストレスへの対応を可能とする流動資産の保有を求める流動性カバレッジ比率と、(4)運用資産の流動性リスクの度合いに応じて調達側の安定度を求める安定調達比率の導入が予定されている。 □これらの金融規制改革においては、個別の金融機関の経営状態のみならず、金融システム全体の健全性を見る「マクロプルーデンス」政策の重要性が、強調されている。 □小林論文では、欧米の金融規制改革が、我が国の不動産市場に与える影響は、金融規制改革を通じて、欧米の実体経済がどのように反応し、それが日本の実体経済にどう作用して、最終的に日本の不動産市場の動向を左右するかといった間接的な経路のほうが、直接的な経路よりも、強いと述べている。 日米の住宅価格を、実質値、名目値の両方で比較しているが、小林論文では、アメリカの住宅バブルの崩壊のほうが、より深刻であるという見方が可能であると述べている。 □また、金融システムの安定性という観点から、バーゼルIIIにおけるカウンターシクリカルな資本バッファーの導入は画期的であると、評価している。 小林論文は、国際金融情勢を見据えて、今後の日本の不動産市場に関連する政策の方向性を示唆しており、きわめて興味深い。 |
価格(税込) | 750円 | 在庫 | ○ |
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