季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2012年秋季号
発行年月 平成24年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言「豊かな住生活」の実現に向けて矢野龍
特別論文不動産市場の現状と課題石澤卓志
論文証券化の経済的な意義吉田二郎
論文固定資産税の経済効果に関する実証分析宮崎智視
論文Jリート再編の実際内藤伸浩
海外論文紹介「縮小都市指標」に向けて鈴木崇之
内容確認
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トリアル
ノート
吉田論文(「証券化の経済的な意義」)は、実物資産を証券化するときの経済的な意義について、解説した論文である。実物資産の集積である企業も、株式や社債という形の保有資産を証券化する仕組みと捉えることができる。証券化の意義を考えるうえで、社会的必要性だけでなく、各個別主体としての必要性についても言及している。
一般に、証券化によって実物資産を小口化することができる。こうした資産に対する需要関数の価格弾力性は、小口化することによって大きくなる結果、さまざまなショックが働いて、需要曲線がシフトしても価格の変動は相対的に小さなものになる。小口化によって、より多くの投資家を見出すことができ、流動性が高くなることは、これまでもよく知られた機能である。
証券化をする際には、金融機能を分解する必要がある。審査や融資あるいは資金回収という機能には、それぞれ規模の経済性が働くために、それらを分離することによって、社会全体の厚生水準を高めることができる。これが証券化の重要な機能のひとつである。
現代の証券化の問題は、トランシェと呼ばれるさまざまな種類の証券を発行することに伴って生じる。証券化には多くのプレーヤーが必要なために、モラルハザードや逆選択のリスクというものは常々生じている。情報の非対称性によって戦略的な行動をもたらすことが多い。そうした戦略的行動を抑止するためには、資産の品質についての細かな情報を把握していないほうがむしろ流動性にプラスになるという論文も紹介されている。
さらに、こうした証券化の過程で、優先権侵害の問題も発生する。資産のプールの中から、安全な資産だけを切り分けて売却することによって、従来の債権者にとっては、危険な資産ばかりを保有する結果になる。こうした問題に対しては、債務制限条項等によって債権者を保護する必要があることにもふれている。
また、セルフセレクションメカニズムを用いて、借り手が担保を提供することによって、担保付の債権と無担保債権を分離するのと同様に、部分保証という形でスクリーンニングをすることの可能性も紹介されている。
債券と株式の場合のように、決定権の違いを重視する立場もある。債務超過にならないときには、企業にとっては株主が最終的な意思決定権を有することが望ましいが、ひとたび債務超過が発生すると、株主に意思決定権を持たせておくと、より危険な投資をするインセンティブが生じるので、望ましくない。これを回避するためには、自動的に意思決定権を株主から債権者に委譲する必要が出てくる。そのためには、株式と社債というのは権利について異なるオプションを持っていなければならない。
こうしたさまざまな観点から、証券化のメカニズムとその帰結がコンパクトに紹介されている。若干説明不足の点もあるが、それは証券化が基本的に金融市場全般に
かかわる問題だからであろう。

住宅に対する固定資産税が、住宅の供給量や価格にどのような影響を及ぼすかについては、さまざまな考え方が存在する。基本的には人々の移動可能性や資本供給の価格弾力性に依存することになるが、宮崎論文(「固定資産税の経済効果に関する実証分析」)では、こうしたさまざまな見方について解説したうえで、自らの実証研究が紹介されている。
Traditional View の前提は、家屋の需給の価格弾力性が無限大であるとする点にある。固定資産税が課税されると、それによって家屋や資本が速やかに他の地域に移動する結果、住宅資産の収益率は固定資産税によっては影響されず、土地の価格だけが変化する。これに対して、New View では、住宅の収益率の低下となって、住宅の所有者も固定資産税の一部を負担することになる。
さらにもうひとつの考え方は、Benefit Viewと呼ばれる考え方で、これはそもそも住宅の所有者も、土地の所有者も、固定資産税の税負担をいっさい被らないという考え方である。ある地域での固定資産税の増税が、その地域の人々にとって望ましい公共支出の増加になるのであれば、その人たちの家賃や地代の上昇を通じて、固定資産税の増税によって受ける負担は完全に相殺されるという考え方である。
宮崎論文では、まずBenefit View について、税率等の地域のデータを代入して、実際に固定資産税の増税が居住者にどのような負担を及ぼしているかについて検証している。その結果、日本の居住者の純負担はほとんどゼロであることから、現行の固定資産税は居住者にとって応益課税であるという。しかし、住宅の所有者にとっては税負担が避けられないことが示されている。
さらに、実際のデータを用いてNew ViewとTraditional Viewを検証した実証研究が紹介されている。固定資産税の課税標準を家屋に対する資本ストックとして、それが税率の格差、すなわち当該地域の家屋の固定資産税の実効税率と全国平均との差からどのような影響を受けるかについて推定した。そのうえで、Traditional View の考え方をチェックするために、家屋の実効税率が地価にどのような影響が及ぶかを推定している。
都市圏を中心とした一部の府県では、住宅のストック量は税率格差からほとんど影響を受けないのに対して、地方圏では、高税率のところから資本ストックが流出するという結果が得られている。こうした結論は、都市圏では、資本と土地の補完性が高いために、資
本の供給の弾力性が小さいためではないだろうか。
いずれにしても、こうした推定結果がどのくらいの頑健性を持っているかについては、十分な注意が必要であるように思われる。

J-REIT(上場投信法人型不動産投信)は証券化の典型ともいえる商品である。不動産という大規模な実物資産を証券化によって、誰でもが小口で投資できるようにした商品である。しかし、2008年のリーマンショックによって、大規模な流動性の枯渇と呼ばれる現象が生じた。これはJ-REIT にとっては過酷なことであった。実際に2008年以降のJ-REIT 価格は大きく下落することになる。もともとREIT はレバレッジ、つまり借入比率を高めることによってその商品の魅力を高めてきた。
しかし、2008年のリーマンショックによって、債務返済後の借入をどのように、ファイナンスするかという問題が発生した。そしてこの後、破綻をまぬがれるために、J-REIT は再編の道筋をたどることになるが、その過程で二つの選択肢が生まれてきた。一つは、J-REIT のスポンサーを銀行や信用力の裏付けのある企業に変更することによって、J-REIT を救済するという選択肢である。もう一つは、他のJ-REIT と合併するという選択肢である。
ここで興味深い点は、価格の下落幅の大きいREIT ほどスポンサー変更よりもむしろ合併に依存したということである。内藤論文(「Jリート再編の実際――合併・スポンサー交代の代償」)の目的は、J-REIT の再編のために、誰がどのようなコストを負担したかについて検証することにある。新しいスポンサーや合併企業によって救済されるために、どのような価値の移転が図られたかということである。新株を発行して救済企業に割当てるときに、J-REIT の既存の投資家から新しい投資家に何らかの価値の移転が発生する、つまり増資に応じてもらうために払い込まれた価格以上の価値が、新しい企業の純資産価値として反映される。これによって、スポンサー交代企業の得る平均的な利益率は10%であるのに対して、合併企業の移転価値は平均で33%という高い値になっている。
この理由として、ファイナンスの困難度の大小が反映されていると解釈されている。ファイナンスの難しいREIT は合併という選択肢を選ぶのに対して、ファイナンスの比較的容易だった企業はスポンサーの交代という結果を選んだという。いわば、J-REIT の救済に向かわせるために十分なレントを企業に支払わなければならなかったという。価格の下落幅の大きなREIT の救済は、スポンサーの変更だけでは不可能で、新しい企業との合併という形でなければならなかったということができる。海外のREIT ではさまざまな資金調達手段が可能になっており、いざというときに多様な資金調達手段によって、REIT を守ることが可能であるのに対して、日本では規制によって、ファイナンスの手法が限定されていることが指摘されている。これも救済時に多額の価値移転をもたらす原因のひとつかもしれない。(F・Y)
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