季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2014年夏季号
発行年月 平成26年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1少子高齢化社会における住宅政策金本良嗣
特別論文2-7リフォーム新時代西田恭子
論文10-19不動産バブルと金融危機の解剖学西村清彦
論文20-27老朽マンションの近隣外部性中川雅之・齊藤誠・清水千弘
論文28-35中古住宅の品質情報と瑕疵に対する対応原野啓・瀬下博之
海外論文紹介36-39住宅費用の負担と子供への投資小俣幸子
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近年の世界的な金融危機は、しばしばサブプライムローン問題と不動産バブルに端を発するとの指摘がなされる。しかしながら、不動産バブルと金融危機は必ずしも同時に起こるわけではなく、また、両者の相互関係に関しても、そのメカニズムが完全に解明されているわけではない。
西村論文(「不動産バブルと金融危機の解剖学」)は、上記のような問題意識の下で、不動産バブルと金融危機の関係を論じたものである。具体的には、?不動産バブルと金融危機の間に介在する要因として信用バブルを取り上げ、?不動産バブルと金融危機つなぐメカニズムを明らかにすることを目的としている。
前者については、人口構成の変化(生産年齢人口の増加)が住宅価格の長期的な変動を説明する要因となっていることを示したうえで、ここに信用バブル(実質ローンの拡大)が重なると、不動産バブルに起因する金融危機が発生してきたことを、日米における歴史的事実を紐解きながら論じている。
そのうえで、米国の2008年金融危機の例を取り上げて、不動産バブルが金融危機を引き起こすメカニズムについて議論している。具体的には、住宅ローン証券化が信用バブル・借入コスト低下を引き起こし、それが持家需要の増加を介して、さらなる住宅ローン証券化を促進してきたという事実を示したうえで、サブプライムRMBSの延滞率上昇を機に、このサイクルが急速に逆方向に進行したことを明らかにしている。さらに、重層的な持ち合い構造が、証券化商品全体の価格暴落へとつながり、結果として金融危機へと派生したことを説明している。
間接金融を中心としたわが国では、銀行システムの中で不動産バブルと信用バブルが進んだために、両者の関係を明示的に把握することは難しい。その意味で、米国の事例を取り上げて、市場データに基づく両者の相互依存関係を明らかにした西村論文は、わが国に対しても重要な示唆を与えるものであるといえる。

戦後の高度成長期に急速に整備が進んだ資本ストックの老朽化とその維持・更新は、重要な政策的課題として、近年注目を集めている。従来、こうした問題は、公的資本ストックの維持・更新問題を中心に議論がなされてきたが、民間部門にあっても、特に老朽化した集合住宅は、区分所有者間での合意形成の難しさに起因して、更新(建て替え)が非常に困難となっている現状がある。
経済学的には、集合住宅の老朽化の問題は、周辺地域に及ぼす負の外部性の一種として捉えることができる。集合住宅の老朽化は、不十分な維持・管理による危険性の増大や、建築物としての外観の劣化、耐震性の低下に起因する防災上の問題などによって、周辺の都市・地域環境を悪化させる。
中川・齊藤・清水論文(「老朽マンションの近隣外部性」)は、東京都のマンションデータを利用して、老朽化住宅の存在がもたらす負の近隣外部性の有無およびその大きさを検証したものである。具体的には、小地域単位でみた築後年数別マンション面積に関する情報をもとに、戸建て住宅の価格を被説明変数としたヘドニック価格関数を推計し、老朽化マンションの集積が戸建て住宅の価格に与える影響を計測している。
分析に当たっては、まず地域内の建物面積合計に占めるマンション面積の比率の効果を見ることで、近隣地域にマンションが立地することの影響を検討している。それによれば、地域内のマンション面積比率が %ポイント増加することで、戸建て住宅の価格が1.5%
下落することが示されている。
そのうえで、建築時別のマンション面積比率をみることで、老朽化に伴って近隣外部性が大きくなるか否かを検証している。結果として、1990年以前に供給されたマンション面積比率の増加は、近隣の戸建て住宅価格を相対的に大きく下落させている一方、1991〜2000年に供給されたマンション面積比率に関しては、統計的に有意な結果が得られていない。こうした傾向は、マンションが存在する地域に限定した推計や、マンション面積比率に影響を与える種々の要因をコントロールした推計においても、頑健に観察されている。
老朽マンションの問題は、居住者の高齢化の問題も相まって、今後より一層深刻さを増していくものと思われる。その意味で、本研究における近隣外部性の定量的な評価は、今後の政策対応に当たっての有益な示唆を与えるものであるといえる。
ただし、筆者らも認識している通り、老朽マンションの増加は、地域の人口構成の高齢化などを伴って進むため、その因果的効果の識別には、課題も残されている。こうした課題に対しては、例えば既存マンションの建て替えや大規模修繕の前後での比較や、耐震基準の厳格化が行なわれた建築基準法の改正前後での比較を行なうことで、より精緻な分析が可能であるように思われる。

わが国の住宅市場の特徴の一つとして、中古住宅の流通量の少なさがある。その理由としては、住宅の品質に関する情報の非対称性と、それに起因する逆選択の問題が指摘されてきた。しかしながら、このような理論的可能性は、データの制約もあり、十分に実証的な検討がなされてきたわけではない。
原野・瀬下論文(「中古住宅の品質情報と瑕疵に対する対応」)は、住宅市場における情報の非対称性を緩和する目的で導入された住宅性能保証書と住宅性能評価書に着目し、これらの制度が中古住宅の取引に与える影響を実証的に検討したものである。
住宅性能保証書は、住宅の基本構造部分で発見された瑕疵について修繕費用を補償する任意加入の保険制度である。保証期間は新築住宅の引き渡しから10年間であり、その間に住宅が転売された場合であっても、その権利は新しい買い手に引き継がれる。他方、住宅性能評価書は、住宅の性能を指定機関が評価し、その品質を消費者に開示する制度である。
これらの制度は、いずれも新築住宅を対象としたものであり、中古住宅の取引に当たっての情報の非対称性の緩和を直接の目的としたものではない。しかしながら、住宅性能保証書に関しては10年間の期間内であれば中古住宅も補償の対象となり、住宅性能評価書に関しても、少なくとも新築時点での品質に関する客観的情報を提示するものであるため、中古住宅市場における情報の非対称性の緩和に対しても、何らかの影響を及ぼすことが期待される。
分析に当たっては、日本住宅総合センターによる研究事業の一環として実施されたWeb アンケート調査のデータを利用して、以下の つの検討を行なっている。
まず、中古住宅の取引価格を対象とした分析からは、住宅性能保証書は中小デベロッパーが販売した中古住宅の取引価格を上昇させる効果を持つ一方、住宅性能評価書は取引価格に影響しないことが明らかになっている。加えて、耐震偽装事件の前後の比較からは、偽装事件前には評価書が中古住宅の取引価格を上昇させる効果を持っていたが、事件後にはその効果が失われたことが示される。
分析ではさらに、価格には表れない情報の非対称性の影響をとらえる目的で、品質情報の有無(住宅性能保証書/住宅性能評価書)と売り主の種別(中小/大手デベロッパー)に着目し、中古住宅購入者の選択問題を分析している。これによれば、耐震偽装事件後には、情報の非対称性の問題が小さいと考えられる、保証書、評価書を保有する物件、もしくは大手デベロッパーによる物件を選択する確率が上昇している。
原野・瀬下論文は、従来不足していた中古住宅の取引における情報の非対称性の役割に関する実証的な検討を行なったものであり、学術的な貢献は大きい。さらに、この結果は中古住宅流通量の低迷に対して、品質情報の整備・開示が有効な対策となりうることを示しており、政策的にも重要な示唆を与えている。
ただし、住宅性能評価書の保有に関して、耐震偽装事件の発生後には、取引価格には影響を与えない一方、選択確率は有意に高まる傾向が報告されており、情報の非対称性に基づく解釈が難しい側面がある。こうした点に関しては、制度利用に関する内生性を考慮した分析を行なうなど、より詳細な分析が期待される。(M・N)
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