タイトル | 季刊 住宅土地経済 2015年夏季号 | ||||
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発行年月 | 平成27年07月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | ページ | テーマ | 著者 |
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巻頭言 | 1 | 住宅の断熱とコベネフィット | 村上周三 | |
特別論文 | 2-7 | 住宅・都市政策今昔 | 和泉洋人 | |
論文 | 10-19 | 不動産バブルと金融危機の解剖学 | 西村清彦 | |
論文 | 20-26 | 女性就業の地域差と通勤費用・住宅市場について | 安部由起子 | |
論文 | 27-35 | 日本の既存住宅市場と借家権保護 | 瀬下博之 | |
海外論文紹介 | 36-39 | 風力発電から生じる騒音・景観破壊に関する経済評価 | 森田稔 | |
内容確認 | バックナンバーPDF | |||
エディ トリアル ノート | 本号に掲載されている本の論文は、いずれも現在の日本の重要な政策課題に関連したテーマを扱っている。 ◎ 西村論文(「不動産バブルと金融危機の解剖学」)は、2000年代後半に始まった米国のサブプライム・不動産バブルと金融危機を論じた西村(2014)と、ほぼ同時期に起こった欧州の住宅バブルと金融危機を論じた西村(2015)を踏まえたものである。ここでは、1980年代後半の日本の不動産バブルおよびその後の金融危機と、2000年代後半の欧米の不動産バブルおよび世界金融危機の類似性を明らかにし、同じメカニズムが働いていることを論ずる。 まず、西村(2014)および西村(2015)で示された、世界経済的な二つの共通要素である悪性のバブルの発生と崩壊には、(1)人口動態が、若く壮年人口が多い状態から高齢化が進む状態へと劇的にスウィングしたこと、そうした人口構成の変化が人々の長期的な期待を過度の楽観から過度の悲観にスウィングさせたこと、(2)新しい金融技術・手段の普及による信用の急激な拡大が同時に起きていること、が確認される。その上で、この二つの要素の日本における動きを記述する。 日本の生産年齢人口比率には、1970年頃と1990年頃の二つのピークがあり、この両時点とも実質地価が大きく伸長した。このうち、1990年頃のピークにおいて悪性のバブルが発生し、その要因は信用膨張であった。実際に、信用膨張が起こったことをデータで確認したうえで、この時期には、「CP」や「金利規制のない大口定期預金」などの金融革新が起こっていたこと、非金融企業によるリスクフリーでの確かな裁定機会が存在していたことなどがていねいに描写される。また、銀行の優良顧客が間接金融から直接金融にシフトしたため、銀行が貸出先を求めて小企業の融資件数を劇的に伸ばしたこと、不動産関連の貸し出しを急増させて、信用の質の低下をもたらしたことが、示される。 さらに西村論文では、実質地価が崩落したとき、ピークから底までどの程度下がったか、どのくらい時間がかかったかの比較を、日米欧間で行なっている。そのうえで、バブル崩壊の規模と人口構成比の変化が驚くほどの符合を示していることを発見している。 西村(2014)、西村(2015)と本号の西村論文は、バブルの発生と崩壊を、人口要因と信用膨張がきわめて説得的に説明することを、記述データと歴史的な事実から示した。しかし、大きな発見である「人口構成の変化度合いとバブル崩壊の規模、期間の符合」については、西村氏が述べるように「なぜここに符合が生じるのか、その経済理論あるいは社会理論はまだない」というのが現実であろう。これを契機に、人口要因を明示的に考慮した理論の発展が起こることを期待したい。 ◎ 安部論文(「女性就業の地域差と通勤費用・住宅市場について」)は、女性就業率の地域差を、通勤費用と住宅価格などの都市経済学の文脈で解き明かしたものである。 まず、最初に高学歴夫婦、いわゆるpower couple が大都市に集中するという主張をして、大きな注目を集めたCosta and Kahn(2000)などの、女性の就業と居住地に関する先行研究のていねいなサーベイが行なわれる。 日本では、この女性の就業と居住地との関係を明示的、体系的に扱った論文はあまりなかった。しかし、近年成長戦略として女性の活躍が大きく取り上げられ、一方で地方創生という形で、出生率の地域格差に注目が集まっている状況では、就業している女性の地域分布に関するメカニズムを解き明かすことは、政策的にもきわめて重要なテーマになっている。 安部論文では、まず就業構造基本調査(1982〜2012)の記述データを用いることで、(?)正規雇用就業率は当初、地方部のほうが首都圏よりも高かったものが、1997年以降、若年層を中心にこの傾向が逆転していくこと、(?)東京都と東京近郊を比較すると、1997年以降には東京都のほうが東京近郊よりも、正規就業率が高くなったこと、などのファインディングが報告されている。そして、そのうえで、単身型都市モデルを用いることで、中心部での夫婦共働きの世帯のビッドレントが、片方のみが通勤するケースを上回る可能性が高くなり、中心部には夫婦共働きが住み、郊外には妻が中心部には通勤しない(専業主婦または、中心部以外での雇用)となることを予想している。 このモデルが暗黙に前提としているのは、都心に熟練労働を用いるような機会が集中しているという事実であろう。集積の経済が強く作用する高度な第三次産業が、都心に集中するという傾向が、安部論文が指摘するような高度な人的資本を有する女性の居住パターンを規定してきたのかもしれない。しかし、これによってもたらされている居住パターンが、厚生水準等にどのような影響を与えているかは、必ずしも明らかにはされていない。また、安部論文で示されているのは、時間費用を節約するための立地行動であり、夫婦であること、女性であることが明示的に反映されたものではない。これらの特徴を組み込んだ、より政策的な含意の深い研究が行なわれることを期待したい。 ◎ 瀬下論文(「日本の既存住宅市場と借家権保護」)は、なぜ日本の中古住宅流通市場が他の国に比して未発達なのかを、理論的に解明したものである。 従来、情報の非対称性がこれをもたらしていることが、多くの論者によって主張されてきた。一方、なぜそのような現象が日本だけでもたらされているかは、必ずしも明らかにはなっていなかった。複数均衡のうち悪いほうの均衡が、歴史的に形成されたという説明や、不動産流通市場において情報の交換コストが高いことなどが指摘されることがあるものの、整合的なモデルによって説明されたことはないと言ってよいだろう。 瀬下論文は、情報の非対称性と住宅に固有な投資が存在する設定の下では、強い賃借権保護が、逆選択問題を大きくすることを体系的に示すことで、「なぜ日本だけが」という問題に一つの理論的な回答を与えている。 そのメカニズムは、以下のとおりである。完全な賃借権保護の下で、長期の居住者は、賃貸住宅に居住しても、持家として購入しても、自らが行なった住宅に固有な投資成果をすべて享受できる。一方、情報の非対称性が以下のような行動の差異をもたらす。つまり、耐久性の高い住宅を持つ当初の住宅の所有者は、賃貸化することで、居住後に耐久性能が明らかになった段階で、それを反映した高い家賃を受け取ることができる。しかし、当初の売買価格に高い耐久性能を反映させることができない。このため、売却という選択肢はとられない。逆に、耐久性の低い住宅を持つ当初の住宅の所有者は、売却することで、真の耐久性が明らかになっていない高めの価格で、住宅を売ることに成功する。このため、耐久性の高い住宅は中古住宅市場から駆逐され、最終的に中 古住宅市場は消滅してしまう。 しかし、賃貸借権保護が不完全な場合、ホールドアップ問題が発生するため、長期の居住者は持家を購入することで、居住住宅に固有な投資の果実を吸い上げられるリスクを回避できる一方で、情報の非対称性により売買価格よりも低い価値の耐久性の低い住宅しか購入できないリスクを抱えることになる。住宅の当初の保有者もこれを裏返したトレードオフ関係に直面しているため、情報の非対称性があっても、分離均衡が実現し、中古住宅市場が消滅することにはならない。 日本の賃借権保護がきわめて強いレベルにあることはよく知られており、一見何の関係もない賃借権保護が、中古住宅市場における逆選択問題を大きなものとしているというロジックは、日本の中古住宅市場の特殊性をきれいに説明している。ただし、このモデルでは持家においても、賃貸住宅においても、住宅に固有な投資が行なわれるということが前提となっているが、賃貸住宅で居住者の改修やリフォームを明示的に組み込んでいるものは、少なくとも近年までは稀であるというのが現実ではないだろうか。また、耐久性の高い住宅は賃貸化されるという結論は、日本の賃貸住宅の質と整合的であろうか。これらの実態を反映した研究を今後期待したい。 (M・N) 〈参考文献〉 西村清彦(2014)「不動産バブルと金融危機の解剖学」『住宅土地経済』第93号、10-19頁。 西村清彦(2015)「不動産バブルと金融危機の解剖学 欧州金融危機の反映」『住宅土地経済』第95号、16-25頁。 Costa, Dora L. and Matthew E. Kahn(2000)“Power Couples: Changes in the Locational Choice of the College Educated, 1940-1990,”Quarterly Journal of Economics, Vol. 115 (4), pp.1287-1315. |
価格(税込) | 786円 | 在庫 | ○ |
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